第三章 力
〜雪の少女の記憶〜

 いい香りがしてきた。
 それは味噌汁の香りだった。
 その香りと共に目が少しずつ開いてくる。
 僕の隣にはユキがいた。そのとき一瞬、夢に出てきた少女を思い出す。行きが夢に出てきた少女と似ている……。夢で僕に語りこんでいた女の人は、僕の近くに雪の少女が居ると言っていた。でも、そんなはずがない。ユキには両親も露葵つゆきという兄もいる。そんなはずが……ないんだ。
「あっ!目が覚めたんだ。おはようございます♪」
「……うん、おはよう……」
「どうしたの?顔色、悪いよ……。やっぱり、バットがいけなかったのかな……?」
「いや、大丈夫だよ……ユキ」
 夢のことで深く考えてた僕に、ユキは心配してくれていた。やはり“雪の天使”スノウ エンジェルと呼ばれるだけはある。ユキは誰に対しても優しく接してくれる。それは敵であってもだ。
 しかし、バットはいけないと思う。そもそも、妹が兄に対してバットを振り回す事自体おかしい。
「どうせまた、兄さんのPAが発動して、夢でも見たんでしょ?」
 PA(ParticularAbility―特定能力)
 それは魔術を得る為に四聖獣と契約した時に、その人に合った能力を授けたもの。
 PAにも色々種類がある。
 例えば一葉姉さん。姉さんには武器の形を自由自在に変えることが出来る変幻自在化能力。
 次にユキ。ユキには通常の魔術よりも効果が高く、なりよりも効力が早いという完全治癒能力。
 そして双葉。双葉には絶対結界展開能力という能力がある。魔術には絶対に張れない結界を張れる事が出来るのだ。そしてもう一つ能力がある。

『契約ノ詩』

 最後に『詩』と付く能力は、その能力を世界でたった一人にしか授けられない力で、その効果は不明という非常に希少価値がある能力。その能力はいくつかの条件が揃ってから発動するのだが、四聖獣はその事を話さなかった。代わりに『詩を授かった者はこれからの世界の運命を抱えても言ってもいい。廻るはずが無い運命の歯車が軋んだ時にその意味が分かるだろう』と言った。その言葉は何の意味をしているのか分からなかった。ただ、分かることは未来に何かが起こる。世界が崩壊するくらいの何かが。
 そして僕には、『歴史ノ詩』と『夢ノ詩』という二つ詩が付く能力を持っている。世界でたった一人にしか授けられない能力を二つも授けたとなると、当然僕は奇妙な存在として見られた。ただ、奇妙な目に見られたのは学園組織の上層部だけであって、友達は気軽に接してくれた。
 そして、今分かっていることは僕の力『歴史ノ詩』が、他人の過去の記憶を夢で見ることだ。その夢が何を意味しているかは分からない。だけど、夢の中で語っている女性は何だか懐かしい気がした。そしてその女性が言う言葉にも重要な気がしてたまらないのだ。
 そんなことを考えていると、双葉が僕の顔を凝視してきた。
「ん〜?何で難しく考えてるの? ……さては、ピュアな女の子のプライベートを覗き見したんでしょ!? この……生きてる犯罪者!!」
「は、犯罪者!? しかも生きてるって……。普通、犯罪者は死んでないって……」
「うるさーい! どっちでもいい! 犯罪者には正義の鉄斎を――灼熱のファイア……」
 そう言いながら双葉は手を掲げた。そして周りには火の精霊が纏い出す。手の先に紅く燃え上がる炎の球が出来上がろうとした。
「ちょっと待った! 別に何も見てない! だから、その炎の球を止めろ」
「車は急には止まらないの! これは兄さんの責任ですから、自分で止めてください!」
 炎の球は完全に出来上がった。こちらに当たるまで双葉の判断で決まる。
「→・Pためでファイアボールですから、ためればためるほど大きくなりますよ? という訳で、残り十秒以内で勝負を決めちゃってください♪ 私は兄さんに当たったら心配でたまりませんよ♪」
「お前……まさかこの場を借りて楽しんでいるよな?」
「そう言っているうちにも、危険が迫ってきていますよ〜?」
「図星だね。これだから双葉は……――虚無のマジカルシャフト」
 双葉に纏っていた火の精霊は消え、手の先にあった炎の球も消えた。そして双葉は舌打ちをし、つまらなそうな顔をしている。そのまま双葉は台所へ向かい盛り皿を持ってきた。
 何なんだ……この妹は。
「さ、早く食べましょう。冷めると、美味しくなくなっちゃいますからね」
 今日の朝ご飯の献立は、
 トースト2枚。
 味噌汁。
 グリーンサラダ。
 目玉焼き。
 自家製プリン。
 そして、机の上には入りきれないほどの自家製ジャムの数。
 苺に蜜柑に林檎に桃に葡萄に……以下略。
 ……ちょっと待て。トーストに味噌汁はあうのだろうか?
「……なぁ、双葉」
「何? 兄さん?」
 大量に色々なジャムを塗っている双葉が顔を上げる。
(それほどにまで塗って……食べれるのか?)
 見ているとこっちまでが食べているかのように感じて、その壮絶な光景を見るのをやめた。はぁ、とため息をつきながら尋ねた。
「パンに味噌汁は……あうのか?」
「意外とあうものなんですよ。パンと味噌汁って」
 そして双葉は大量にジャムを塗ったパンを頬張った。その顔は幸せに満ちている。
 一方、ユキは瞳をキラキラさせて大量の桃のジャムを塗っていた。ユキは大の桃好きである。『桃さえあれば生きていける』と笑顔でガッツポーズを言ったのも彼女だ。
 そして姉さん。大量の林檎のジャムをトーストだけではなく、プリンの上までかけている。
 僕にとったら、みんながやっている事はおぞましい光景だ。通称地獄絵図。
 朝から甘い物があまり食べたくない僕は、冷蔵庫からマーガリンを取りに行く。冷蔵庫を開け、マーガリンを取ろうとした瞬間、後ろから双葉の反論の声が聞こえた。
「兄さん、それは外道のすることです」
「は……?」
「朝は甘いジャムに限ります。そしてその甘いジャムを食べると、新しい一日が始まったんだなーって感じるんですよ。この気持ち、兄さんには分からないんですか?」
 双葉が二枚目のパンに大量のジャム塗りながら言う。その横で、ユキがうんうんと頷いていた。
「それとも兄さんは甘いものは嫌いなの?」
「いや……別に嫌いではないけど……朝はあまり食べたい気分ではないんだ」
「兄さん! それでも女の子!?」
 双葉が机をバンッと叩き、怒りながら言う。『それでも女の子!?』……その言葉、今日何回聞いたことやら……。それに兄さんと女の子は矛盾しているが。
「僕は女の子じゃないって」
「えっ!? 違うんですか!?」
 真剣に驚いているユキ。……まさか信じていたとは……。
「ん〜、兄さんを女装させたらどうなるかな〜?」
「絶対、男と分からないかもね」
「可愛い……かも?」
 いつの間にか話の流れが僕を女装させることになっている。
「いっそのこと、兄さんを女装させましょうか?」
「僕は変態として新聞に載りたくはない……」
「それ、いいね……。そうしようよ双葉ちゃん」
 そして、僕の一言を無視。
 早く他の話しのネタを思いつかないと、本当に女装させられてしまう。
「……そういやユキ。どうして家の中にいたんだ?」
 少し戸惑いながらもユキは言う。
「えっと……実は……」
 言っていいものかとユキは悩んだが、どうせ最終的には分かるものだろうと思い、口に出した。
「朝起きたら、葉くんの家の押入れの中だったの」
「「え?」」
 ユキ以外が食べるのを止め、ユキの方へと視線を変えた。
 予想外のことだったか、ユキが逆に驚いていた。
「じょ、冗談だよ……。あの……本気にしないでよね」
「あー、びっくりした……。ユキちゃんが冗談を言うとは思っていなかったから……」
 あらためてユキが口を開く。
「実は任務で露葵お兄ちゃんが家にいないんだよね……。私、寂しくなるのが怖くて、隣の家だから一緒に朝ご飯でも食べようって思って来たんだけど……。チャイム鳴らしても誰も出てこない割には、家の中で声が聞こえたから、幼馴染の仲というわけで入ってきたんだよ」  寂しいのが怖いのか……。
 独りぼっちは嫌なのか……。
 明るい彼女がそんな事を言うなんてな。
「別に構いませんよ。むしろ大歓迎ですっ。ねっ、兄さん?」
「ああ。いつでも食べに来てもいいよ。ユキ」
「ありがとう……」
 そして彼女は優しく微笑んだ。
「でも、葉くんと双葉ちゃんがああいう仲だったという事は知らなか……むぐっ」
 ユキが言ってはいけない事を声に出した。慌ててユキの口を塞いだが、遅かった。後ろから双葉が抱き付いてきた。
「やっぱり私達の関係はそう見えるんだ〜♪これってやっぱり禁断の恋!?」
「お前が勝手にじゃれ付いて来ているだけだろう」
「酷い!じゃあ兄さんは私のことどう思ってるんですか!?」
「ただの暴力娘」
「……今ここで兄さんを殺すことも可能なんですよ?」
 腕を僕の首もとへ動かし、少しずつ力を入れ始めてきた。
「デット・オア・アライブ?」
 双葉が妙な笑顔で僕に問い詰める。
「そんな非力の腕で僕を殺せれるとも?」
「やってみないと分からないでしょ!?」
 双葉が強く締め付けてきた。予想した通り、やはり非力だった。事前に首にプロテクトをかけていたため、効果はない。
「やってみなくても、予想はされていた事だが?」
「うぅ〜、萌死んじゃえーー!!」
「誰が萌死ぬか!!」
 そんな僕たちのやり取りを見て、ユキがくすくす笑い出した。
「ふふっ、さっきのは冗談だよ。葉くんと双葉ちゃんの仲良しっぷりは、何年も前から知ってるよ。それに、早くしないと学校遅れるよ?」
「「あっ」」
 時計の針は六時三十分を差していた。

「桜の花びらって、きれいと思いませんか?何だか……神秘的で……」
 登校途中、桜並木の下で双葉は歩きながら言った。横にユキ、僕、双葉、姉さんの順で並んでいる。
「でも、やっぱりすごいよね。秋なのに、桜は咲いている。雪は降っている」
 この学園は一年間ずっと桜が咲いている。それは、魔術で作った魔法道具、再生の種による効果だ。花が散ってもすぐに再生するので、また同じ花が咲いてしまうのだ。
 この永遠と降りゆく雪は……
「ごめんね双葉ちゃん。私のせいで……寒いよね?」
「ううん、そんな事ない。ユキちゃんのおかげで私の好きな雪が毎日見られるんだから」
 ユキが四聖獣と契約した時に代償として払ったものが、『温もり』。別名、『永遠の雪エターナルスノウ』。死ぬまでずっと、雪の中で生きなければならない。つまり、いくら季節が夏であったとしても、天候が崩れ寒くなり雪が降ってしまう。……それが彼女の代償。そしてそれが自分だけではなく、他人まで被害がくらってしまうので、彼女は一生懸命償っている。誰に対しても行う完全治癒術だ。治癒術は自分の身体の体力と引き換えに使う術なので大変危険だ。だけど、それを知ってながらも彼女はひたすら癒し続けている。自分の身体が壊れてもいいくらいに……。
「私は……本当は雪が好きじゃないんだ……」
 ユキが切なそうに言う。その顔は、いままで見たことがないくらいに暗い顔だった。
「雪は……そう、私を蝕んでいく……。心も身体も……」
 そしてそのまま無言。
 雪と桜が舞う桜並木に心地よい風が吹く。
 だけど、雪を纏う彼女の周りは風が吹いていないように感じた。
 ユキは何を思っているのだろうか?
 彼女は、哀しさを胸に抱えているのではないだろうか?
 その瞬間―――
 ふいに、夢の事を思い出す。
 友人を失った少女。
 家族を失った少女。
 記憶さえも失った少女。
 全ては雪のせいで……。
(……ユキとやっぱり似ている……)
 彼女を救うことは出来ないのだろうか。
 彼女の泣いている姿は見たくはない。
 自分に出来ることは……
 護ること。
「ユキ……」
「何……葉くん?」
「僕はユキを護るから……。たとえ、世界中の人たちを敵に回しても、ユキは僕が護るから……。だから、そんな暗い顔をしないんでいいんだよ。僕はユキの笑顔が見たいんだ」
「ふぇ……?」
 ユキの顔が赤く染まっている。恥ずかしくなったのか手で顔を隠した。
 一方では、双葉が笑っていた。
「なーに、一人でかっこつけてるんですか? 兄さん」
 そう言いながら、双葉はユキの前へ行き手を差し出した。
「ユキちゃんを護るのは、兄さん一人だけではありませんよ。私もユキちゃんを命に代えてでも護ります」
 つれて姉さんも
「ま、可愛い妹君を護るのも、姉さんとしての役割なんだ。あたしも護るよ。雪菜。何、あたしが護るからには、雪菜には指一本も触れさせないからね」
「……みんな、人が良すぎるよ……。私なんかのために、護るだなんて……」
 ユキは胸を抑えながら、辛そうに言う。
「だって、仲間だろ? ユキ」
「……仲間……」
 そうユキは呟き、頬からは雫がこぼれ落ちる。
「ユキ、泣くな……」
「だって……だって……。私、こんなにも大切にされているなんて、今初めて気付いたんだよぉ……。こんな私が、護ってもらえるなんて……」
「ユキ。『こんな私』って言うな」
「だってそうでしょう? 私はみんなに迷惑ばかりかけている。私のせいでみんなは寒い思いばかりする。いくら償っても償い切れないぐらいに……。私、何でこんな力を得てしまったのかなぁ? 最初は私、みんなを救いたい気持ちで魔術を習いだしたのに……。私の力って何の為にあるのかなぁ……? 友達のため? 自分のため? それとも……自分の欲望を満たすため? もう、何が何だかわからないよ……」
「もう自分を責めるのは止めろ! ユキ!」
「私なんか! もう居なく……ふぇ?」
 震えているその身体を強く抱きしめた。責任という感情に押さえつけられている小さな身体を壊れないくらいに。
「もう、ユキはみんなを救ってるんだよ。この小さな身体がガラスのように砕けてしまうかもしれないのに……それでも、償い切れないとでも言えるのか!?」
「だけど……私がしている事に……意味は……」
 ユキが僕の身体にうつぶせた。そして、彼女は強く僕の身体を抱きしめてきた。
 彼女は今、自分が償っている事は軽い事だと思っているかもしれない。だけど僕たちからの目で見たら、自分を壊しているように見える。この事を彼女は本当に分かっていないかもしれない。そして彼女に自分がしている意味を早く気付かせなくてはならない。そうさせないと、本当に壊れてしまうからだ。
「僕は雪の泣いている所は見たくないんだ。僕はユキが笑っている所が見たいんだ」
「……はい」
 ユキは微笑んだ。
 そうだ。僕はこの笑顔が好きなんだ。
 泣いている姿より、ずっと。
 そして、この笑顔を護らないといけない。
 この笑顔を壊す訳には……いけないんだ。
「……あの……そろそろ放してくれないかな? ものすごく恥ずかしいよ」
 ユキの顔が赤く染まって、戸惑っていることに気付いた。
 ユキの身体を放したが、それよりも後ろからの視線が痛い。
 恐る恐る後ろに振り向くと、お怒りモードの双葉がこっちを睨んでいる。
「……何か、妙にクライマックスな展開でしたけど?」
「ひゅーひゅー、お二人さん熱いねー。これじゃ、あたし達は場違いかな?」
 姉さんの余計な一言が、双葉の怒りに火をつけた。
「そのまま放置でもしていたら、キスシーンまで行きそうな展開でしたよね?」
「いや、それは……その……」
「兄さんには、もう一度バットエンドになりたいようですね」
 双葉はバットをイメージし、具現化させた。
 バットで殴られ死ぬ=バットエンド。
 ……なんか無茶苦茶だ。
「クライマックスな展開だったんだろ? 何故、バットエンドに行く必要があるんだ?」
「ユキちゃんルートのトゥルーエンドは、私の好感度も必要なんです! よって、ここに兄さんの撲殺バットエンドを宣言します。覚悟してください。兄さん!」
 双葉は華麗にバットを振り回し、バットに雷の精霊が纏いだした。そして六芳星を一瞬にして描き、結界を展開させた。僕をここから逃げれなくするための寸法だろう。
「撲殺の前に感電死するし、それに一人狙いで他のキャラの好感度も必要ないんじゃないか?」
「うぅ〜、うるさい! うるさい! うるさーい! 兄さんはここで制裁を喰らうべきなんです!!」
「無茶苦茶だな……。ここで僕は死ぬわけにはいけないし……ユキまた後でな」
「何をする気ですか? 兄さんは私の結界の中に居るわけですから、どう足掻いても逃げれませんよ〜♪」
 双葉の言っていることを無視して、僕は詩……詠唱を唱えだす。
「時の使徒クロノスに告げる――時の歯車に堕落の剣を――時を狂わし堕ちていく――その歪み、此処に創り出せ!」
 双葉はしまった、と呟いて詩を止める魔術を仕掛けてきた。
 でも、僕の詩のほうが早い。
「創作のタイムエディット!」
 タイムエディット。それは時空の空間、時間の歪みを創り出し、空間を行き来すること。簡単に言うと、瞬間移動っていうやつだ。
 そして目の前に空間の歪みが出来上がり、僕は結界から脱出した。歪みの光の中を駆けて、歪みから出ると、目の前には青一色。雲の上だった。
 もう妹はいない。
 勝利の満ちた快感。
 呪縛から逃れた開放感。
 ああ……生きてるって素晴らしい。
「兄さん! 逃がしませんよ!」
 後ろからは聞こえるはずがない声が聞こえた。
 振り向くと、そこに双葉がいた。
「えっ!? なんで双葉が僕の後ろに!?」
「兄さんも、バカですね〜。何で歪みをそのまま放置して逃げるんですか?」
 歪みを解除するのを忘れていた……。だから、後ろから追っかけられているんだ。そしてそのまま、抗うこともなく僕は双葉の腕に捕まった。
「捕まえた〜♪」
「ヘルプ! ヘルプ!」
 必死に助けを求めた。今、僕が居る場所は空の上だ。腕を捕まれては魔術が唱えることは出来ない。それよりか、双葉が何を仕出かすか分からない。
「兄さんの懺悔なんて聞きませんよ〜? 私、シスターじゃありませんから〜♪」
「お前は僕の妹だろうが……」
「む、上手い事言いますね……。まあ今は、兄さんとのスカイダイビングを楽しんで、後で気絶させましょうか♪ きっと即死ですね〜♪」
 とびっきりの笑顔で言った。
「僕を殺す気満々だな……」
「ジョークですよ♪ ……多分」
「多分って何だ!? 多分って!?」
 双葉は今の状況を楽しんでいて、僕の話が聞こえていないみたいだった。いや、聞こえていないフリかも知れない。そうしているうちにも地上がだんだんと近づいて来た。
「双葉、早く放せ!早くしないと詠唱も唱えれないじゃないか!?」
「〜〜〜♪」
「双葉のバカーー!!」
 その刹那。白い結界が僕たちを包み込んだ。