KEY-14 謎の写真
Data//2002.7.13(Sta)

 俺の右手には、雑巾。左手には掃除クリーナー。
「どうしてこうなったのだろうな……」
 俺は今、家の至る所まで掃除している。
 いや、掃除させられているの間違いだろう。
 空が変なことを言わなかったら、こんなことにはならなかったのだが。

 そう、空がこんな事を言わなかったら……
「翔くん、いつ契約するの?」
 “定めの書”を持った空がそう言った。
 空はいつでも契約の準備万端らしい。
「ぶっ! ……いきなりなんだよ?」
「なんだよって……もうそろそろ、自分の意思をはっきりさせないと」
「自分の意志か……」
 結局は分からない。
 いろいろ考えてみたものの、契約をする……とか、
 しないとか……どうでもいいことだった。
 今は、空のことが心配で。
「……仕方ないなぁ」
「ん?」
「はい、これっ」
 手渡されたのは雑巾。
 何故に?
「ほら、もし翔くんが、諦めずに契約をしなかった場合、消えちゃうんだよ」
「な、何が言いたい?」
 あの空の妙な笑顔。
 嫌な予感がする……。
「この家は無人になっちゃうんで、これからお掃除したいと思います♪」
「却下」
「なら、契約する?」
「それも却下」
「なら、掃除をしないと」
「却下」
「それが嫌なら契約だね」
「だから却下だ」
「じゃあ、お掃除っ♪」
 ぐいぐいと雑巾を顔に当てられる。
「きゃ……却下だ」
「んー、じゃあ契約っ♪」
 ぐいぐいと本を顔に当てられる。
「……」
 永遠ループですか? これは?
「どーするの?」
 とびっきりの笑顔で空はそう言った。
 ふっ、俺には空が子悪魔に見えるぜ。
 やっぱり天使じゃないのか……。
「……俺は」
 迷わず雑巾を選んだ。

 というわけで、空とのお掃除が始まった。
 面倒こと極まりない。
 だけど、これも運命。
 嫌々しなければならないのだ。
「さてと……」
 まずは、親父達の部屋からか……。
 最近入ってなかったなここには。
 ドアを開ける。
 閉じていたせいか、この部屋に入った瞬間埃が舞った。
「う……、埃だらけだな」
 すぐさま、窓を開けた。
 空気が入れ替わるのが分かる。
 新鮮な風が部屋の中に入っているからだ。
 それに太陽が照っている。
 陰気臭い部屋に、光が差し込んだ。
「ふぅ……始めるか」

――数十分。

「こんなもんか……」
 親父達の部屋は、俺の手によってビューティフルになった。
 陰気臭かった部屋も、緑溢れる神聖な部屋へ早変わり。
 このビフォワー、アフターの変わり様。
 匠の手によってここまで綺麗になるのか!?
「疲れた……」
 まず、変なテンションを出すのが。
 そして、俺の手が動けないほど掃除をしていたからだ。
 俺は疲れてしまい、タンスへと凭れ込んだ。
―ゴツッ!
「いたっ!!」
 俺の頭部に何かがクリティカルヒット。
 かなり痛い……。何か分厚いものが当たったらしい。
「これは……」
 アルバムだ。
 目の前には赤いアルバムが落ちていた。
 それを拾う。
 そのアルバムはかなり重い。
 全ページに写真でも入れているのだろうか。
 そのアルバムを開いた。
 一ページ目には、俺が赤ん坊だった頃だろうか、赤ちゃんが写っている写真があった。
「アルバムがあったことなんて、全然知らなかったな」
 そういえば、親父は写真を撮るのが好きだったな。
―ペラ、
 ページを捲る。
 どれの写真も俺が幼かった時の写真だ。
―ペラ、
「ん……?」
 三ページ目には、人が写っていない写真があった。
 風景でも撮ったのだろう、川が写っている。
「本当、親父は写真が好きだったな……」
 しかし……、
 風景を撮り過ぎだ。
 かなりの暇人と見た。
 ま、カメラマンの趣味は俺にはわからないけどな。
―ペラ、
「またか……」
 風景を撮っている写真。
 あと、俺が写っている写真。
「おかしいな……」
 こんな写真撮っただろうか?
 幼い時のその俺は、カメラ目線でピースしている。
 しかし、撮った記憶がない。
 子供の時の記憶だ。
 きっと忘れているのだろう。
 そう思い聞かせた。
―ペラ、
「は……?」
 誕生日なのだろうか、ケーキが写っている。
 ただ、ケーキだけ写っていた。
 訳がわからない。
 後ろには、竹と短冊が写っていた。
 七夕?
 な訳ないか、七夕の日は親父達の誕生日じゃないし。
 じゃあ、誰かの誕生日?
「ん?」
 誕生日ケーキの上に乗っているチョコに、何か名前が書かれていたのがわかった。
 それは、
『■ちゃん、誕生日おめでとう』
 と。
 名前のところが汚れていて見えない。
 ……何だ?
 この違和感。
 ■のところが妙に突っ掛かる。
 俺には■のところが知っている?
 なんて書いているのか。
 だって……、
「この誕生日会に俺もいた」
 ――っ!?
 俺の口からはとんでもない事を言っているのに気付く。
 馬鹿な。
 何でそんなこと、俺が知っている?
 頭が痛くなる。
 俺が何を考えているのかも分からなくなった。
 ――っ!
 力を抜くと、意識が飛びそうだ……。

「かっけるくーん? 掃除は終わったー?」
 空の声が聞こえた。
 前を向くと、そこには空の姿が。
「あれ? もしかしてサボってるの?」
「……空か」
 何とか頭を叩くなるして、意思を保つ。
 今の俺にはこれが精一杯だ。
「ん? 何を見てるの?」
 空がアルバムに気が付いた。
「これ……」
 写真を見て空が驚いている。
 何に驚いているんだ?
「――全ては……因果律の輪の中なの……?」
 ……因果律?
 何を言っているんだ?
「……ぁ、いけない……身体が熱く……」
 空の顔を赤くなり、
 呼吸も乱れてきて、
「か……けるくん……」
―ドタッ
 と、空が倒れた。
「空っ!?」
 空を呼ぶが、返答はない。
 助けようと、空を抱えようとしようとするけど
「俺も……やばかったんだ……」
 頭がぼおっとしてくる。
 視界がだんだんと、暗くなっていく。
「空を……助けなくちゃ……空を……」
 目の前に空が居るのに、
 倒れて苦しんでいるのに、
「空……ごめん……」
 無力だった。
 そして、
 意識が途絶えた。


――全ては因果律の輪の中で……――