KEY-11 天使と水遊び
Data//2002.7.11(Wed)
これはある真昼での事。
ぎらぎらと輝く太陽。
照らすは俺の鍛え抜かれたボディー!
今日は水泳だ!
気分は最高潮を達している。
そして俺の目の前には、
女の子!
ではなく、
野郎どもの身体、身体、身体。
俺の気分がダウンしてしまった。
……最高にクールだぜ。いや、ブルーだぜ。
分かりやすく説明すると、バブル崩壊後の日本みたいな感じだ。
なんで、こんなに野郎どもの比率が高い理由は、
男子ばっかりの工業高校を選んでしまったからだ!!
……畜生!
人生やり直してぇ!!
「「「おおおっっ!!」」」
ギャラリーがざわめいた。
飢えた野郎共を見ているほうを見た。
何とそこには、我が情報技術科の三姉妹が立っていた。
長女、佳織。
その魅力的なナイスバディで野郎どもを魅了する。
ボンッ! キュッ! ボンッ!
パーフェクトなスタイルだ。
やはり……白色の水着か。白色の水着しか着ない、竹村佳織。
好きな色は白。……人生白色な奴。
そして腐れ縁のせいか、俺は綺麗だとか可愛いとか想った事はない。
これが腐れ縁の定。
すまない佳織。
腐れ縁じゃなかったら、可愛いと思っていたかもしれないぞ。
次女、時羽。
その天然な口調は飢えた野郎どもを癒してくれる。
自称、クールビューティーも伊達ではないか?
佳織に負けず、スタイルはボン、キュ、ボン!!
んー、マーベラスだぜ。
昨日も見たが、大人を感じさせる緑色の水着。
えっと……確か、翼の色も緑だったよな。多分、緑色が好きなのかも知れない。
それに背中には翼が見えてないな。きっと、何かの力で消しているんだろう。
さすが、クラスの高い天使様。
末っ子、空
小さな身体。ぺったんこな胸。ロリコンを撃沈させるつぶらな瞳!
ああそうさ。空のスタイルは、
キュッ! キュッ! キュッ! と何も出ていない。
これはある意味、ゴッド!!
ロリコン殺しの異名を持つ者だけはあるな。
水着はフリフリ素材で、背中に小さな羽根が付いているという、プリチィーなデザイン。
まあ、あれは……本物なんだけどな。ばれなきゃ問題はないんだけど。
どこからか「「「スク水じゃないけどグッド!!」」」と何か腹が立つ声が聞こえた。
空は仮にも、俺の妹という設定付きだからな……。
空に触れるものがいれば、即行俺の拳が輝く。
多分、これ俺の役目。
……もしかして兄貴としての威厳?
――俺、妄想中。
「さあ、空ちゃん、俺と一緒に遊ぼうぜ」
「きゃあ、お兄ちゃん助けて!」
空にハイエナの手が!!
「待ってろ! 空!!」
すぐさま俺の拳がハイエナへと咆哮する。
刹那。
ハイエナは宙を舞った。
そして水の中へドボン。
一発KO。
どんな奴でも、一撃だ。
「空、大丈夫だったか?」
「うん。ありがとうお兄ちゃん♪」
「はははっ!! 大したことはないさ」
こうして兄の威厳は保たれるのであった。
――妄想終了。
って、おい!!
何ださっきの、俺の人柄を勘違いされそうな説明、つーか妄想は!?
「はっ!?」
俺は何かデジャヴを感じ、時羽の方を向く。
目が合い、時羽は手を振ってきた。
意味深な笑顔で。
やっぱり世界観を変えられたのですか。
……。
また、世界観が変わりそうだな。
……。
あの人がこのまま何もしないというのもおかしい話だ。
気をつけてないと……。
――十五分後
水飛沫が舞っている。
空はシャチと共に楽しそうに泳いでいた。
まるで、久しぶりのプールを満喫している小学生みたいに。
気のせいだろうか?
何か省略された気がする。
何かが。
「兄さん、泳がないの?」
ぷかぷか。
シャチの風船に乗っている空がそう言う。
シャチは自分をより幼く見えるスーパーアイテム。
空はそれを覚悟の上で乗っているのか?
いつも「子供じゃないもんっ!」って、威張っているくせに……。
こんなところでは、子供っぽい行動を取るんだよな。
って、ここの校風は「自由奔放」なんだが、さすがにシャチは自由すぎるだろ?
もしかすると、また世界観が変わっているかもしれない。
「自由奔放」から「自由気侭」に。
……大して変わってねぇ。
「ねえ、聞いてる?」
空は上目遣いで聞いていた。
その瞳は俺のハートをズキューンと、
……貫くはずがない。
訂正、俺はロリコンじゃねぇ。
って、空の問いにも答えなくては。
「俺は、泳ぐためにここにいるんじゃない。太陽の光を浴びる為にいるんだ!」
「あ、そう」
どうせ期待してなかったよ、と言いたそうな顔をする空。
空はつまらない顔をして、そのままシャチと共にぷかぷか漂流。
《空ちゃんLOVE》と書かれた襷を着けているの野郎と話している空。
他の野郎から隊長と呼ばれる奴だな……。
って、いつの間にかファンクラブが結成されていたのか……。
恐ろしい、ちびっこの影響力。
でも、何だろう。
空は独りじゃないのに孤独に見えるのは気のせいか?
空だけが疎外されている。いや、疎外はされていないけど……。
まるで空が現実、事実から無理やり追い出されている。
……そんな感じがする。
――だって誰も孤独は好きじゃないと思いますから――
昨日、時羽から言われたことを思い出した。
孤独。
その言葉が俺の心を痛くする。
そうだった。
もう空には親族と言える人もいなく、友達と呼べる人もいない。
甘えれる人は……今、俺しかいないんだ。
時羽もそうなんだが……あれは上司関係があるみたいで、甘えられないのだろう。
佳織とは上手くやっていけそうだと思うのだが……。
不安が募る。
今、空を孤独にしたらどうなるか。
――ちゃんと接してあげないと、その子壊れちゃうかもしれない――
そうだった。
――元々体力がなく、小さな身体です……空は――
それにあいつもあいつだ。
――それでもあなたの事が心配で、強い素振りをしています。本当はとても弱いのに――
バカだ。本当に。
俺も空も。
構って欲しい素振りを見せているのに、気付かない俺と、
言いたい事が上手く言えなく、諦めてしまう空。
どっちもどっちなんだ。
俺はプールへ飛び込み、泳いだ。
ある我侭なお姫様に向かって。
空が俺に気付いた。
「太陽の光を浴びるんじゃなかったの?」
ため息をつく。空は呆れているようだった。
だけど、今の俺は空に対する思いを伝えたくて……。
そして俺はこう言った。
「ひめっち。俺が側に居るから。大丈夫だから」
「……え?」
空は目を疑った。
俺が俺じゃない人に見えたのか。
まあ、俺がかなり変なことを言ったからかな。
「……兄さん、何で……?」
次の言葉が詰まる。
俺に何か言いたい事があるのか?
――ページが戻っていく――
――っ!?
何だ? さっきの声……。
――運命が変わりだした――
――っ!?
またか!?
何なんだ? これは?
「兄さん……の――」
空の瞳から涙が零れた。
それは何かを訴えているようで。
「バカ!! 何で悪い方向へと――」
空の声が聞こえなくなる。
―ザ、ザザ……。
何かの雑音と共に世界が歪んだ。
テレビに不法電波が入って映像が乱れた時みたいに、景色が歪んでいる。
どうしたんだこ――
―ザァァ……。
□ 世界観にバクが発生
情報が途絶えるというバグが発生。
原因不明。
状況解析中……。
バグは、天野翔を中心として拡大中。
現在、範囲はおよそ半径20キロメートルと判明。
これは早急に修復しなければならない。
――現在修復中。
天野翔の近くに居た天使の存在確認の捜索。
鍵天使、天野空……不明。
調天使、時羽望……存在を確認。
天野空の存在確認を急ぐ。
……。
存在は確認されず。
空間転移、若しくは存在消滅したと推測。
――修復完了。
……。
天野翔の側に天野空の存在を確認。
……。
天使の確認終了。
エラー原因のデータを保存中。
設定を保存中。
これにて、緊急プログラムを終了する。
「兄さん、兄さんってば!」
――ん。
誰かに起こされたようだ。
顔を上げる。
俺の目に映ったもの。
そこにはリボンをしている可愛らしい少女が居た。
瞳は純粋で綺麗なスカイブルー。その瞳がずっと俺を見ていた。
あれ?
誰だっけ……?
この子は……。
……そうか。
なに寝ぼけているんだろう。
だって、この子は俺の大切な――――
―プツン。
記憶が途絶えた。
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