……。
俺は今、闇の中にいる。まるで光が全く無い世界のようで。
しかしなぜだろう。
ここは何となく気持ちいいのだ。
そう、何だか温かい心地で、
そして、夏の暑さを忘れさしてくれるような涼しい風がしている。
ここは……
天国なんだろうか?
……。
って!? 俺はもう死んだのか!?
今思い出せ!
俺のヒステリィーを語ったメモリィーズを!!
えっとたしか、霊園で……
天使の少女、空と出会って、
うん。あの子はかなり可愛かった。俺のタイプまちがいな……
って、何を考えてるんだ俺は!?
俺はロリコンじゃない!! ああ、そうさ。決して!! 俺は神に誓おう!!
……ふぅ。
で、何を考えていたんだっけ?
そうだ。空と出会って、それから俺の家に行こうという話だったんだ。
それから俺はすごいものを見たんだな。
天使の翼という物をな……。
綺麗だった……。空は……俺の女神様だな。
って、余韻に惹かれている場合じゃない。
それからそれから……、
俺は空と一緒に空を翔けて……。
俺は……その後……。
落ちたんだよな。
うん。そういうことがあったな。
……。
俺が落ちた?
あ、あはははは……。
「あの……馬鹿天使が!!」
「ひゃあ!! び、びっくりしましたよー……。翔くんが突然起きるから……」
「ん?」
俺は顔を上げる。
そこには光があった。闇ではない光が。
そして俺はなぜかソファーの上で寝転がっている。
俺は辺りを見渡した。
見慣れた景色。色々な家具。
ここは俺の家だ。
だが目の前には驚いている空が居る。
しかしなぜだ? 俺は空から落ちたんじゃないか?
何故俺はここに居る!?
「どうしたの〜? 身体の調子が悪かったら、まだ寝てても良いだよ? 時間はまだあるから」
「いや、もう寝てなくても良い。今は聞きたいことがたくさんあるんだ」
「そう? なら、私は冷たい麦茶でも入れてくるんで、ちょっと待っててねー」
そう言うと、空は台所に向かった。
―すてて……、どたっ―
あ、転んだ。
結構、おっちょこちょいなんだな。
しかし、どうやったら転ぶんだ?
あそこは確か何もない……、
―どたっ―
また転んだ。
だから、どうして転ぶんだ?
あそこにも何もないはず……。
あ。
俺は何かに気付いた。
空が転んだところ、そこには……。
床にリモコンが二つ転んでいる。まさかそれに引っ掛かったのか?
何だか……不幸というより……。
不憫だ……。
俺は空のことがだんだん可哀相な子に見えてきた。
いかん、涙が……。
「あれ? どうしたの? 涙なんか流して?」
「ああ。いや目にごみが入ったみたいで……」
お約束の言葉。
男は女の子の前で涙を流してはいかんのだ。
男はか弱い女の子を護る。
これが俺のポリシィー。
「泣きたかったら、泣いて良いんだよ。……翔くんは昔から涙もろいんだから」
「ぬおっ!!」
何故そのことを!?
これは親父達にしか知らないはず!?
「ものすごく驚いてるね……。私は天使だからなんでも知ってるよ? 例えば翔くんの誕生日は8月11日。血液型はB型。趣味、天文観測。特技は……」
「分かった分かった。分かったからもう言わないでくれ」
空は、そう? と言いたそうな顔でこちらを見ていた。
「じゃ、今度は翔くんから聞いてよ。私に質問したいこと、いくらでもあるんでしょ?」
そうだ。驚いている場合じゃなかった。こいつには聞きたいことが山積みあるんだった。
「一つ目は……鍵天使って一体何だ?」
「鍵天使? それは、私が就いている士官。つまり簡単に言うと職業だね」
「職業? 鍵っていうのが職業なのか?」
「うん。そうだよ。鍵天使は“運命の鍵”という物と“定めの本”というのが渡されるんだ。えっとこれがそうだよ」
空はそう言うと指を鳴らす。それと同時に空中に本と鍵が出てきた。
そしてゆっくりとテーブルの上に落ちた。
俺はその本と鍵を見た。
本には鍵が掛かっていた。
「……この本には……何が書かれているんだ?」
そう俺が問うと、空は言い難そうな顔をしていた。
これはとても聞いてはまずい事のような気がする。
それはそうだ。鍵が掛かっているくらいなんだからな。
「やっぱ、まずかったか。ごめんな言えない事を聞いてさ」
「……言えない事じゃない。この本に書かれていることが私の存在であり、私がこれから話す本題でもあるんだから……」
「え?」
空は真剣そのもので言った。
今までのおふざけがまるで嘘のように。
「今ここにおいて、私は貴方に伝えます。貴方は……あと一ヶ月でこの世界から神の力に於いて抹消されます」
空から初めて子供らしさが無くなった。
それはまるで天使のような感覚。いや……空は天使なんだが。
「しかし貴方には生き残れる方法が一つだけあります。それは神に契約すること。ただそれだけなんです」
「契約……? でも、ちょっと待った。何で俺がこの世から抹消されないけないんだ?」
「それは貴方が……“運命の子”であるからです」
「運命の子……?」
全然分からない単語だ。……ま、俺は天使じゃないからな。
……もしかしたら俺って、すごい人物なのか?
ゲームやアニメみたいに、不思議な能力を持っている主人公みたいとかさあ……。
こんな俺が? まさか。
……でも、そのまさかが結構多いんだよな。
空が話しても良いですか、と言いたそうな顔でこちらを睨んでいる。
俺はちょっとびびったか、思わず何回も頷いた。
「運命の子……すなわち、神に抗う人間のことです。これから話す事は長くて信じがたいことですが……真剣に聞いて下さい。後、話の途中で質問などしないで下さい。終わった後で答えますから」
校長先生が話すような長い話は嫌いだ。だけど今は……生死に関わっている重大な話。
だから俺は真剣に空の話を聞いた。
「まず、この世界は神が創りました。人間が言う創造主のことです。しかし、人間は少し勘違いをしている所があります。それはこの世界が神によって創られた。そして人間も創られた。その所までは合っています。しかし、神は人間の人生の話……運命までも創ったのです。簡単に言えば、貴方と私が霊園で出会ったのも神によって。……貴方の両親が事故で亡くなって、貴方だけが生き残ったのも神が創ったお話なのです」
「ちょっと待て!! 俺たちの思想は全て神が創ったものって言うのか!?」
「静かに。質問は最後。今は聞いて。……神は運命を創りました。しかし、神でも対処できない事があります。それは神が創った運命とはまったく別の行動をする人間が出来てしまったことです。それが“運命の子”と呼ばれるものです。そしてそれに神は対処するため、火から天使を創ったんです。そしてその“運命の子”を修正させるのにやって来る天使が……私達、鍵天使なのです……。以上、これまで。最後に質問じゃないの翔くん? あー、天使面は堅苦しくてやだなー。普通が一番だよね……ふぅ」
空の顔が一瞬にして子供になった。
そして、ぐびぐびと麦茶を一気に飲み干してぷはーっ、と声を漏らす。
もはや……天使ではない。
「あれー? 質問じゃなかったのー?」
空が疑問そうに聞いてきた。
それもそうだろう。いきなり顔が変わるからだ。
「あ、ああ……。俺たちの思想は全て神が創ったものなのか?」
「そうだね。99%、貴方達人間が考えること、これから行動することは全て神が創っているね。簡単にいうと小説、ゲームの中のキャラクターと一緒だね」
ということは、今俺が考えているのも神によって創られたもの?
わけがわからない。
本当に俺たちは創られた物なんていうことが。
「あ、翔くんは違うよ。何せ、“運命の子”だもの。神が創った事とはまったく別の行動をしているから。ま、契約したら変わるけどねー」
「俺がもしも契約したなら俺は一体どうなるんだ?」
「契約したんなら、神の思うように翔くんは行動するんだよ。つまり、契約しても対して変わんないかなー? 強いて言うなら、自分の思う通りに物事が進まないことだけかな?」
「俺の思う通りに物事は進まないか……。そんなの俺はやだな」
「だけど、契約しないと死ぬんだよー? 死ぬより生きたほうがまだマシだよー?」
「俺は神に抗う人間なんだろ? だったら、最後まで抗って、最後には抹消されずに生き残って見せるさ」
「……こういう人間って結構多いね。自分が特別な人間だと知ると、見栄を張っちゃうんだから」
空は「はぁ……馬鹿だよね」とため息をついた。
だが、空になんと言われようと俺は動かない。
俺は俺の人生を生きたいだけだ。
そして俺の野望は、空を彼女に……
って俺は何を考えてるんだ、コンチキショウ!!
「何一人でやってるんだか……。つまり、最後まで契約しないんですか?」
「おう。俺は生き残って見せるさ!」
「仕方ないなー。じゃあ、今日からこの家に泊り込みだねー。これからもよろしく翔くん♪」
え……今何て言った? この子?
ちょっと、ヤヴァイ事言わなかったかな?
「聞こえなかったのー? 今日から一ヶ月間、この家に居候させてもらうからね♪ 荷物とかはもう空き部屋に置いてあるからー♪」
え?
ええ?
えええっっ!?
「マジですか!?」
「うんマジ。だって天使ですから」
「いや、笑顔で天使ですからって言われても」
この家は俺一人だけだったんだぞ?
この家は俺と空だけって事になる。
……これはゲームのシュチエーションと同じだ!!
最終的に二人は恋に落ちて……、
エンディングには感動のフィナーレを飾るってか!?
ちょっと、ヤヴァイ方向へと進んでないか?
すると、俺の考えている事が分かったのか、空は胸を隠しながら
「大丈夫大丈夫。翔くんは夜中にヘンなことはしてこないって思っておいておくから♪」
と、恥ずかしそうに言う。
「俺はロリコンじゃない!!」
「……私、子供じゃないもん」
「そんな言葉を言うなーーー!! 余計にドキドキしてしまうじゃないか!!」
「ロ・リ・コ・ン♪」
「うるさーーーーーい!!」
「あははーやっぱり翔くん面白いー」
……。
ふぅ……。何だか疲れてきた。
でも、ちょっと待てよ?
俺の近くに居るって事は……
「明日学校なんだが……まさかお前、ついて来るんじゃ……」
「うん。行くよ。一緒に学校へ」
「お前天使だろ!? ってしかも高校じゃなくて、空は中学校だろ!?」
「へ? もう翔くんの高校に手続きしてるし……。それに学校の先生に天使いるよ?」
「マジですか!? だって誰も気付かない……」
「翼は隠せるんだよー。でも、私は羽根を出したいけどねー♪」
空は翼を出す。
しかし、俺が霊園で見た大きくて綺麗な翼ではなかった。
それは小さくて可愛らしい空に合った翼。ゲームで出てくるような、ちっちゃな羽根だった。
「えへへー♪ 可愛いでしょー?」
空はその翼を俺に見せびらかす。
「可愛い……」
あれ……?
っ!! つい本音を言ってしまった!!
「やーい、ロ・リ・コ・ン♪」
「黙れーーーー!!」
「あははー、おもしろーい♪」
もう疲れた……。
これから一体どうなるんだろう?
俺のスクールライフは……。