第六章〜Meister with scientist’s name(前編)〜
-遠い約束〜白銀の生誕祭〜-

 王国の領地内。広く、どこまでも続く草原。瓦礫の山を、立て札を無視してくぐり抜け、私は歩いていた。
 昇る日は暖かく、辺りは次第に明るくなってくる。
 アマツを旅立ってから、一体どれ位の時間が経ったのか。振り返れど、故郷は遥か遠く。私は郷愁の念を感じながら。
「何にも分かってねぇんだよなぁ。あそこの爺どもは」
 そう、愚痴っていた。
 腰に巻いた作業服が風に揺れる。
 大体、あそこは保守的な奴らが多すぎるんだ。今の時代は科学だって言うのに、それを分かっちゃいない。引きこもりの集まりだね、あそこは。
「娘が旅立つってのに、親父は見送りの一つもないしさぁ」
「正確には、追い出されたんですけどね」
 声は、私の肩から。
 私はため息を吐いて、肩に乗っている雀を指で小突いた。
「うるさいよ、瑠璃」
「だって、本当のことじゃないですか。博士があんまり調子に乗るから」
 調子には乗ってないよ。あれは、そう。ほんの茶目っ気さ。
「茶目っ気で、普通ミサイルを飛ばしますか?」
「うるさいなぁ」
 時には、そんな遊び心も必要だって。
「ボクを生み出してくれた事には感謝しますけどね。あまりやり過ぎるって言うのもどうかと思いますよ」
「あ〜、もう!! うるさいうるさい!!」
 私は雀型アーティファクトである瑠璃を、指で何度も小突く。何度も何度も、同じ場所を。
「い、痛いですよ!! 博士!? ちょ、博士!!」
 あ、面白くなってきた。
「あんたがあんまり調子に乗るからだよ」
「ひ、ひどっ!! 自分の事は棚に上げて、ボクにばっかりそんな仕打ち……。あっ、ちょ、まっ、ごめんなさい〜!!」
 さて、瑠璃いじりも飽きたし。本格的に宿を探そうかな。
「近くに街はない? 瑠璃」
「ありますよ。このまま直進して十三キロの地点に、大きな街が」
「十三キロ〜!?」
 まだ歩かなくちゃいけないのかぁ。結構な距離だぞ、それ。
「ったく、タリィなぁ〜」
「頑張れば、昼頃には着きますよ」
 そんな瑠璃の声を聞きながら。私は、ゆっくりと前進して行った。

―――――――

「存在意思。全ては、それが始まりでした」
 謁見室。僕は、集まった聖騎士団とクロウさん。それにこの王国の王様に、1800年前の戦争を、その全貌を話していた。
「当時の帝国皇帝は、存在意思の存在を立証し、その概念を世界にもたらした人でした」
 セリカが死んでから、数日。知らせを聞いた国民は皆悲しむ中、今ようやく王都は活気を取り戻しつつあった。
 そんな時だったんだ。クロウさんに、この話を持ちかけられたのは。
『ユウ君。過去の、戦争の全てを話してくれないかな。過去を、繰り返さないために』
 聞けば、クロウさんは現帝国皇帝と和平交渉を進めているらしかった。
 僕は、頷いた。聞いて欲しかったんだ。この記憶は、アウルとしての記憶は、今の僕には重すぎたから。
「存在意思。それは、全ての存在が存在として世界に認知されるための情報体。人にも、草にも、風にも。今、僕たちがその存在を認知できるもの全てに、その存在意思はあります」
 そう。それが、存在意思。
「個が個として存在しうる力。それは、小さかれ大きかれ、とんでもない力です。そこで、皇帝は思いました。この力を上手く利用すれば、この世界の支配者、神になれると」
 それは、とても現実味の無い話。でも、この場にいる人は、誰も笑ったりせずに真剣な眼差しを僕に向けていた。
「存在が消えると、その存在に宿っていた意思も少しの間だけこの世界に留まって消滅します。皇帝は、そこに着目しました。少しの間だけこの世界に留まるのであれば、消える前に回収して、別の存在に意思を定着させればいい、と」
 一息。
「皇帝は、いい意味でも悪い意味でも天才でした。造り上げられた装置は、拠り所を失った存在意思を定着させるもの。それも、無尽蔵に。最初は、皇帝は大地や草木を破壊しました。でも、そうして集められた存在意思はごく微量なものです。だから、皇帝はもっと手っ取り早く存在意思を集めるためにある事をしました」
「それが、戦争の始まり……」
 クロウさんが呟く。
「ええ、その通りです」
 そうなんだ。それが、始まりだったんだ。
「沢山の人が死にました。人の存在意思というのは、極めて大きいものです。最も情報量の多い存在ですから。そして皇帝は、存在意思を集め続けました。そう。この世界を構成する存在意思を凌駕する量を集めたんです」
「一つ、いいかな」
 クレアさんが手を上げる。
「はい」
「それが、皇帝が支配者になる事と、どういう関係があるんだい?」
 そう。誰もが疑問に思う事。
僕は頷いて、口を開く。
「僕が辿り着いた世界では、人が認知できる最大の存在は宇宙と呼ばれるものでした」
 でも。
「この世界には、その概念が無い。じゃあ、この世界で人が認知できる最大の存在は、何ですか?」
 それは。
「……この、世界」
 ミリアが呟く。僕は、頷いて見せた。
「そうです。ですが、皇帝は人が認知できる最大の存在を凌駕する存在を創り上げてしまった。それは、とても大きな矛盾です。最大の中に、最大を超える最大がある。容量以上に空気を入れても、割れない風船と同じことです。とても、とても大きな矛盾。当然、存在する限り人はそれを認知しますから、矛盾に気付きます。世界の中に、世界を超える何かがある。情報を処理できなくなった脳は、その時点で混乱を起こします。全世界の人が、一斉に混乱するんです。今まで認知されてきた世界は、それだけで無茶苦茶になる」
 一息。
「そうすると、この次元での全ての存在意思の母体である世界は、訳の分からなくなった存在にリセットを掛けようとします。世界という枠組みの中にあるもの全てを、真っ白にするんです。それは、存在の抹消。今まで世界を認知してきたものを、混乱したものを全て消す。世界を超える何かも含めて、全てを。これで、虚無の出来上がりです」
「でも、それじゃ皇帝まで消えることになるぜ?」
 うん。ヴァイスの言うことは最もだけど。でも、皇帝は消えることは無かったんだ。
「あくまで、世界が消すのは混乱して世界を無茶苦茶にしたものだけ。混乱してなかったら、消す必要は無いでしょ? 皇帝は、全てを理解して、受け入れていた。だから、混乱しなかった。だって、自分が引き起こしたことだから」
 一息。
「当時の王国は、帝国に残されていた研究資料でその事実を知りました。それは、避けられない終焉。でも、当時の聖騎士団には対抗手段がありました」
「対抗手段?」
「ええ。魔力を無効化できる剣を振るう者。アウル・アントラスです」
 そう。僕が、対抗手段だった。
「魔力は、自らの存在意思そのもの。術式として外に放出することで、世界に存在を認知させ、力を得るもの。だから、魔力を無効化することは存在意思を消し去る事と同様になる」
 それも、研究資料で分かったことだった。
「皇帝と、複製された存在意思は帝国が製造した巨大空中移動要塞の中にありました。王国は世界の終わりを防ぐため、決戦用兵器として製造されていた超巨大魔力圧縮砲を使って、巨大空中移動要塞を撃ち落としました。要塞が墜落した場所は、グラン・マル平野。今は、進入禁止区域となっている場所でした。世界の終焉まで、あと少し。要塞内に配備されていたアーティファクトを破壊しながら、僕たちは駆け抜けました。途中、僕以外の聖騎士は全員要塞破壊に向かい、僕は一人でアーティファクトを蹴散らしながら皇帝の間まで走りました」
 今でも、思い出す。あの、ハッキリとした極彩色を。
「満身創痍でした。やがて、崩壊を始めた要塞の中を、朦朧としながら駆け抜けました。魔力反応が消えて行って、僕以外の、要塞に突入した聖騎士は全員戦死。自爆という危険性の残っていた要塞を、彼らは命を掛けて破壊してくれたんです。でも、そんな事すら考えることの出来ないくらいに、僕は傷ついていました」
 痛みが全身を駆け抜けて。
「でも、止まることは出来ない。セリカと約束していたから。世界を救って、絶対に彼女の元に帰るって。そして、僕は皇帝の間に辿り着いて。セイヴ・ザ・クィーンで、レプリカの存在意思を貫きました」
 そう。それが、1800年前の戦争の結末。
「あとは、クロウさん。貴方が聞いた通りです」
 長い昔話が終わる。僕は、少しだけ張り詰めていた息を吐いた。
「分かりました。それが、1800年前の戦争の、その全貌なんですね」
 頷いてから、クロウさんは王様を見る。
「王。理解できましたか?」
「ん? お、おう。当ったり前だろ?」
 慌ててクロウさんにそう答える、若い王。聞けば、クロウさんと同い年だと言う。
 薄紅色の髪の毛。その下にある翡翠色の双眸は、かなりの知性を感じさせる。が、いかんせん雰囲気が全てをぶち壊している。
「やれやれ。初登場なんですから、もっとシャンとしたらどうですか? レヴァール」
 さも当然のように、王を呼び捨てにするクロウさん。驚くことに、この二人は幼馴染で親友だという。世界は狭いね。
「兄さん。ボクたちはこれで失礼するよ?」
 クレア総隊長が、苦笑を浮かべながら王に言う。
「おう」
 短くそれに答える王。
 レヴァール・アーシェリー王。クレア総隊長の実の兄。この世界に来て、一ヶ月とちょっと。初めて知った事実だった。
 ゾロゾロと謁見室を出て行く聖騎士団。
「忘れるな。貴様が伝説の聖騎士団長だとしても、俺のライバルには変わりはない。例え、最近の出番がフィアより少なくても、俺は貴様のライバルなのだ。忘れるな。いいか、忘れるなよ」
 僕とすれ違いざま、そんなタブーに触れて去っていくアレックス。ごめん。正直、忘れかけてた。
「それじゃ、先に戻ってるぜ」
 ヴァイスを先頭に、去っていくチーム・アハツェンの皆。
 それを見送った後、僕は王の近くまで歩いていった。
「おう、聖騎士アウルじゃねぇか」
 僕を見るなり、そう言う王。僕は、苦笑を浮かべて首を振る。
「今の僕は、アウル・アントラスじゃありません。別の世界から来た漂流者、佐々木悠です」
 それは、決意を込めた言葉。僕はもう、アウル・アントラスを名乗らない。アウルは、あの時セリカと一緒に死んだから。
「過去と、決別するか」
「はい」
 頷く僕。王はそうかとだけ呟き、玉座に体重を預けた。
「聞きたい事が、あるんじゃないのか?」
 何もかもを見透かしたかのような一言。僕はその一言に微かに迷い、そして首を縦に振った。
「セリカは、お姉ちゃんは幸せそうでしたか?」
「さぁ、な。そんな事、俺が知るはずも無い。が」
 そこで言葉を区切る王。
「愛した男と共に過ごした時間は、幸せだっただろうな」
「そうですか」
 セリカは、幸せだった。1800年生きた中の、ほんの数年。それでも、セリカは幸せだった。
 ……それが、聞きたかった。
「すまんな。曖昧で」
「いいえ。十分です」
 それだけ言って、踵を返す。そろそろ戻らないと、午後の訓練に間に合わない。
 そうして、一歩を踏み出そうとした瞬間。謁見室の扉が、音を立てて開いた。
「王。謁見を希望する者が来ておりますが」
「ん? ああ、通してもいいぞ〜」
 非常に軽い受け答え。入ってきた兵士も慣れているのか、一礼だけして謁見室を後にする。
 それじゃあ、僕も出ようかな。
 そう思い、一歩を踏み出す。そんな時だった。謁見室に続く扉が、盛大に押し開かれたのは。
 兵士の制止も聞かず、ズカズカと謁見室に入ってくる人物。
 ダボダボのズボン。腰に巻いた作業服。豊かな双丘を無造作に隠すタンクトップ。腰まで伸びた長い髪は、うなじの辺りで無造作に纏められている。
 そして、なにより印象的なのは、不敵に輝いている眼鏡の奥。その双眸だった。
 深い黒。燃え上がるような意志を見せる漆黒。それは、とても綺麗だった。
「あんたが、ここの責任者?」
 女性は、王を指差してそう尋ねる。その豪快な登場に呆気に取られていた王は、言われるがままに頷いていた。
「貴女は、誰ですか?」
 王に代わり、クロウさんがそう尋ねる。
「私? 私は、アカネさん。アカネさん・カグラ。アマツから来た、副業鍛冶師の科学者さ。で、こっちが助手にして小間使いの瑠璃」
「すいません。常識を弁えていない主人で」
 指差され、申し訳なさそうな声を出す雀。猫が喋るんだから、雀が喋ってもおかしくない。……そう思うことにした。
「アマツの科学者、ですか。珍しいですね」
 感心したように、クロウさんは呟く。
「で、わざわざアマツから何の御用かな?」
 驚愕から立ち直った王が、余裕気にそう聞いた。
「単刀直入に言う。環境が欲しい」
「「「は?」」」
 王とクロウさんに混じり、思わず僕まで疑問の声を漏らす。
 環境が欲しい? 一体、何のことだろう。
 頭の上を疑問符が飛び交う中。瑠璃が、やれやれと言った感じで口を開く。
「いきなり押しかけて、申し訳ありません。僭越ながら、通訳させていただきます」
「あ、ああ。頼む」
「博士は、アマツでは数少ない科学者でした。本来なら本業であるはずの鍛冶を放って、科学にのめり込むほどの科学馬鹿。そう思ってもらって構いません。で、博士はつい先日、自分が開発したものを、その威力を確かめたくなって……」
 瑠璃の言葉が濁る。
「魔力を使わずに、何かを開発したんですか? いやはや、凄いですね」
 感嘆の息を漏らすクロウさん。
「何を開発したんだ?」
 アカネさんさんが開発したものに、興味津々の王。
「ミサイルっていう、魔力を使わずに対象を爆破するものさ」
「その、ミサイルを……」
 胸を逸らして自慢げに語るアカネさんさんと、対照的にどんどん声色が沈んでいく瑠璃。
「ミサイルを?」
 王は、ここに至っても興味津々だ。……何となくオチが読めてきた。
「撃ったんです。アマツの、人が滅多に立ち入らないような僻地に」
 やっぱり。
「幸い被害はありませんでしたけど、その事で長老たちが激怒しちゃって」
「で、私はそんなアマツに嫌気が差して出てきてやったのさ」
 つまり、追放されたんだ。
「ですから、今の博士は科学の研究をしようにも出来ない状況で」
 だから、環境が欲しい、ね。
 僕は、思わず溜め息を吐いていた。
「聞けば、ここは大陸にある国家の一つで、その首都だって言うじゃない。どう? 私を雇ってみない?」
「……何で、この王都なんだ?」
 さすがの王も、警戒を解ききれない様子でアカネさんに尋ねる。そりゃ、下手したら王都内にミサイルが撃ち込まれるかもしれないんだから、当然と言えば当然だろう。
 それを聞いたアカネさんさんは、深いため息を吐く。
「ぶっちゃけ、タリィんだよなぁ。必死に歩いてここに着たんだ。もう歩きたくないのさ」
 さも当然のようにそう答えるアカネさん。
 それを聞いた王は、一瞬だけ目を丸くして。そして、愉快そうに笑った。
「はっはっは!! 面白いな、お前。いいぞ。科学分野はまだ手付かずだが、環境は揃えてやる。場所は、聖騎士の館の地下倉庫を片付けて使うといい。案内は、ここにいるクロウとユウにしてもらえ」
 いきなり話を振られる僕とクロウさん。
 やれやれと苦笑するクロウさんは、もう何かを諦めているようだった。
 アカネさんは品定めするようにクロウさんを眺め、そして僕に目を向ける。その漆黒の双眸が輝いたように見えたのは、気のせいだろうか。
「……先に謝っておきます。ごめんなさい」
 瑠璃が、そう呟くと同時に。いきなりアカネさんが僕に向かって走ってきた。
「なっ、何ですか!?」
「へぇ〜。いい刀持ってるねぇ」
 背中に差している刀の柄をおもむろに掴み、引き抜くアカネさん。解放された白銀の刃は、何度か使った今でも美しく輝いている。
 その刀の腹に指を沿え、撫でるように指を動かすアカネさん。
 傍から見れば、非常に不気味だ。
「長いけど、悪い長さじゃないね。ちゃんとバランスが取れるように反りが計算されている。熱処理の仕方が巧いな。重すぎず軽すぎず。ちょうど良い重さだ」
 ブツブツと呟きながら、刀を眺めるアカネさん。
 唖然とする僕の肩に、瑠璃が止まった。
「すいません。博士は、いい刀を見るとすぐに品定めしちゃうので」
「この刀、銘は何て言うんだい?」
 瑠璃の謝罪の言葉に重ねるように、アカネさんが聞いてくる。僕は、それを聞いて首を横に振った。
「銘は、知りません。兄さんが慌ただしく渡してくれたものですから」
「ふ〜ん。勿体無いねぇ」
 それだけ言うと、アカネさんは刀を鞘に戻す。
「さて。それじゃあ、案内してもらおうか。私の仕事場に、ね」
 そう言って笑うアカネさんは、何か、とても楽しそうだった。
「ああ、そうそう。これからは、私に敬語なんか使う必要ないからね。名前も呼び捨てでいいよ」

―――――――

 聖騎士の館、地下倉庫。初めて訪れたそこはかなり埃っぽく、何に使うのか用途の分からない物で埋め尽くされていた。
 そんなガラクタの山を掻き分けながら、チーム・アハツェン総出で掃除をすること数時間。
「何で私がこんな事……!!」
「もう疲れたよぉ〜」
「……お前は何もしてないだろう」
 それぞれが不平不満を述べながらも、ガラクタを処分していく。
「頑張ってください。もう少しですよ」
 まとめられたガラクタを第二倉庫に運んでいるクロウさん。運動量は人一倍多いはずなのに、笑顔は爽やかだ。
「ほら。早くしてくれないと、日が暮れちゃうだろ?」
 何一つとして手伝おうとしないアカネは、どこから見つけたのか、ゆったりめの椅子に偉そうに腰掛けている。非常に身勝手な人だなぁ。
「皆さん、すいません。ほら、博士もちゃんと働かないと」
「あ〜、もう。うるさいうるさい」
 瑠璃が可哀相だった。
「腑に落ちないわ。何でここを使うはずの人が偉そうにふんぞり返って、使う予定の微塵もない私たちがこんなに働かなきゃいけないの!?」
「いいじゃねぇか。その分、ユウと一緒にいる時間が増えるんだから」
「何言ってんのよ、アンタは!!!!」
 いきなり、錐揉みしながらガラクタの山に突っ込んでいくヴァイス。
「な、何なの!?」
 上半身をガラクタの山に埋め、下半身をピクピクさせるヴァイス。吹き飛んできたガラクタをキャッチしながら、僕はミリアに視線を向ける。
「何でもない」
 そっぽを向き、掃除を続けるミリア。心なしか、その頬はわずかに紅潮していた。
 ――そんなこんなで、一時間後。
 なんとかスペースの確保できた地下倉庫。
『第二倉庫の中も、掃除しないともう入りませんねぇ』
 そう、ため息を吐きながら去っていったクロウさんの背中は、とても小さかった気がする。
「いやいや、ご苦労さまだったね」
 さながら独裁者が部下の苦労を労うような言葉で、僕たちの頑張りを労ってくれるアカネ。飛び掛りはしなかったけど、ミリアのこめかみには青筋が浮いていた。
 やれやれと帰っていくチーム・アハツェンのメンバー。
「ああ、ユウだったっけ?」
「はい?」
 出て行く直前。アカネに呼び止められた。
「その刀、扱いには気をつけな。もうそろそろ、ガタが来そうだからね」
「えっ?」
「つまり、限界を超えて酷使しすぎるなって事さ」
 話は終わりとばかりに、ヒラヒラと手を振るアカネ。
 地下倉庫を出て、刀を抜く。輝く刀身。
――もうそろそろ、ガタが来そうだからね――
 アカネの、その言葉が脳裏に反芻していた……。




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