王宮内。執務室。ずっと昔から使っている部屋。思い出の詰まった部屋。その中で、私はアウルと一緒にいた。
大切な人。私の初めての友達で、初めての想い人。
「セリカ。俺は、王都を出ようと思う」
唐突に、アウルがそう言う。私には、何が何だか分からなかった。
「クロウが、俺を疑っている。帝国側のスパイじゃないのか、とな」
「そんな。アウルがスパイだなんて……」
「疑われているのは、事実だ。ここままじゃ、あらぬ疑いで拘束されるかもしれない。だから、そうなる前に、な」
フッと苦笑して、アウルは腕を組む。その姿は、とても寂しそうで。とても悲しそうで。私は、そんなアウルを見たくなかった。
だから、決めた。
「着いていきますわ、どこまでも」
ずっと一緒にいるって、そう誓ってくれた人のために。あの遠い約束を守ってくれた人のために。
今度は、私が報いる番だから。
「そうか。ありがとう」
少しだけ嬉しそうにそう言って、アウルは部屋を出て行こうとする。
アウルが出て行く直前。その背中に、私は誓いを立てる。
「お姉ちゃんが、守ってあげますから」
扉を閉める。これで、全部のお膳立ては整った。あとは、事を起こすだけ。自然と、顔に笑みが浮かぶ。
舞台は、始まりのあの場所。主役は、二人。長い長い復讐劇の終焉。
「さあ、始めよう」
やっと願いが叶う。やっと、やっとだ。
「追いかけて来い。待っていてやるぞ」
仮面の下が疼く。早く早くと急かす。
始まりを、始めよう……。
深い深い霧の中。どこかも知れない闇の中。地に足がついているのかすら分からない、そんな中。僕は、夢を見ていた。
知らないはずの声。知らないはずの顔。
懐かしい声。懐かしい顔。
夢の中では、僕は一人の男の子だった。まだ小さい、純粋無垢な男の子。
王宮騎士の隊長だったお父さんに連れられて、姫様の誕生パーティーに出席していた。
偉い人たちが一杯いる。皆、楽しそうに笑っている。お父さんも、楽しそうに笑っている。僕もそれが嬉しくて、笑っていた。
でも、一人だけ。この場所で、笑ってない人がいた。
豪華なドレスに身を包んだ、僕より年上の女の子。階段の先にある椅子に座って、その顔は、笑うことがなくて。王様も妃様も笑っているのに。女の子だけ、笑ってなくて。僕は、女の子に近づいていった。
――楽しくないの?――
それは、子供ゆえの疑問。女の子は僕を見て、小さく微笑んで。
――だって、つまらないですわ――
上品に、そう言った。
何でつまらないのか。分からない。何で、楽しくないんだろう。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
――じゃあ、楽しいところに行こうよ――
僕は、そう言って女の子の手を取る。今、お城の外でお祭りが始まっている。お姫様の誕生会を、平民が祝うお祭り。そこには、色々なお店が出ていて。きっと、楽しいはず。
王様も、妃様も、お父さんも、皆気付いていない。だから、こっそりとこの会場を抜け出した。
――どこに行くの?――
――外のお祭りだよ――
女の子はそれを聞いて、少しだけ黙って。
――ちょっと待ってて――
そう言って、どこかへ走っていった。
しばらくして、女の子は着替えてきた。動きやすい服装。質素な服装。僕は女の子の手を取って、走り出した。
お城から、外に出る。見張りの人も皆、今はお祭り騒ぎ。外に出るのは、難しくなかった。
ポケットに手を入れる。お父さんから貰ったお小遣い。一日なら、たっぷり遊べるお金。
女の子と一緒に街を歩いて。いろんな物を見て。いろんな物を食べた。
――お譲ちゃん、可愛いね――
人のよさそうなおじさんが、そう言って女の子にオマケの果物をくれる。
――坊主。しっかり守ってやれよ――
僕は、力一杯頷いた。
しばらくして。夕暮れがきて。一杯笑った女の子と一緒に、僕はお城に帰っていった。お父さんに怒られたけど、女の子の顔を見た王様と妃様は嬉しそうに笑っていた。
――ありがとう。楽しかったですわ――
――おねえちゃん。また会える?――
――もちろん。私たちは、お友達ですから――
友達。僕は、嬉しくて。女の子と一緒に、笑った。
三年後。王様と妃様が、急病で死んだ。おねえちゃんは、まだ小さいのに女王になった。僕は、そんなおねえちゃんの力になりたかった。
だって、友達だから。女王になってからのおねえちゃんは、もう笑わなくなっていたから。
何がおねえちゃんの幸せなのか。何をしたら喜ぶのか。分からないけど、分からないまま終わるなんて、そんなの嫌だったから。
だから、僕はおねえちゃんの力になろうって思ったんだ。
来る日も来る日も、お父さんに戦い方を習った。近衛騎士になれば、おねえちゃんの傍にずっといられる。そう、お父さんに聞いたから。
毎日毎日、血を吐いた。何度も何度も気絶した。その度に、お父さんは心配そうな顔をしたけれど。でも、僕は止める気はなかった。
そうして、五年後。十四歳の誕生日。
王宮兵士を選別するセレクション。近衛騎士への第一歩。
周りは、僕よりも歳が上で、筋肉があって、身体が大きい人たちばっかりだった。でも、僕は逃げなかった。だって、おねえちゃんが見ていてくれるから。僕を見て、驚いた顔をして。少しだけ、笑ってくれたから。あの笑顔を、もっと見たいって思ったから。
結果。僕は、セレクションで一位を勝ち取った。周りは強そうに見えただけで、敵って言えるほどの相手はいなかった。
おねえちゃんが、認定証書を手渡してくれる。久しぶりに見たおねえちゃんは、とても綺麗になっていて。
――おめでとう――
笑顔で、そう言われて。僕は照れくさくて、少しそっぽを向いて認定証書を受け取ったんだ。
それからは、ひたすらに、我武者羅に頑張った。剣の練習も欠かさず続けた。ただの剣じゃなくて、大剣の練習。普通の人なら、持ち上げるだけで精一杯の剣。
でも僕は、あえてそれの練習を重ねた。だって、人と同じことをしていても、近衛騎士になんかなれるはずはないんだから。
やがて、大剣も楽に扱えるようになった頃。僕は、王宮騎士に昇格した。
我が事のようにお父さんは喜んで。お父さんの下で任務が出来るって、僕も喜んだ。
そうして過ごした六年間。最終的に僕と同格に力を持つ騎士は、数えるだけになっていた。
そして訪れた、二十歳の誕生日。僕と、僕と互角の力を持った三人の騎士が新しい近衛騎士に昇格した。
やっと、待ち焦がれた近衛騎士になれた。お父さんは、置いていかれたか、と残念そうに、でも笑顔で僕を祝ってくれた。
誓いの儀式。女王に忠誠を誓う、自らの言葉。近衛騎士就任後、すぐに行われた儀式。
おねえちゃんを目の前に、他の三人が忠誠の言葉を誓う。
――次は、貴方の番ですわ――
大人になったおねえちゃんが、大人になった僕にそう言う。
僕は大きく深呼吸して。微笑を浮かべておねえちゃんを見て。
――これからは、俺がずっと一緒にいるから――
そう、誓った。
笑顔を浮かべて、おねえちゃんは頷く。
――破ったら、承知しませんわよ?――
嬉しそうに言いながら、近衛騎士を示す勲章を僕に手渡してくれた。
それから、二年後。異例の速さで近衛騎士団長になった僕は、おねえちゃんに呼ばれて執務室に来ていた。
――貴方は、術式が不得意でしたわね――
未だに身体強化の術式しか使えない僕に、そう言うおねえちゃん。僕は、恥ずかしくてそっぽを向く。
――鍛冶と錬金の達人に、特注で創らせました。気に入ってくれればいいのですが――
言いながら、術式を用いて机の上に何かを置くおねえちゃん。それは、立派な大剣だった。荒々しさの中に気品を感じさせる、重厚で無骨なフォルム。長い柄。峰を包むように突き出た鍔。その一部には、術式が刻まれていた。
――魔力を無効化できる剣ですわ。銘は、まだありませんけれど――
大剣を手に取り、構えてみる。ズシリとした重量感。扱えない重さじゃない。
――セイヴ・ザ・クィーン――
――え?――
――女王の守護者。それを、この剣の銘にしようと思う――
大切な人を護り抜く剣。そんな想いを込めて、僕は大剣をそう名付けた。
――ありがとう、■■■――
夢の中の僕が呟く。でも、肝心なところが聞き取れない。
やがて、景色は薄暗く点滅して。僕の意識は、更に深淵へと沈んでいった……。
夢を見ていた。知らないはずの、懐かしい夢。急激に浮上する意識。目蓋の裏が白く明るい。
そうして僕は、目を開けた。
「よう。やっとお目覚めか?」
隣から声がする。視線を向けた先には、ベッドに腰掛けた、所々に包帯を巻いたヴァイスの姿が。
少しだけ気まずくなって、僕は目を逸らす。
「ったく、無茶しすぎなんだよ。臨界を超えた真眼の使用は命に関わるぜ?」
いつもの笑みを浮かべて、ヴァイスは言う。僕は少しだけ躊躇って。そして、ヴァイスに頭を下げた。
「あんな事言って、ごめん」
「……気にするな」
声は、後ろから。頭を上げ、視線を向けた先には、ヴァイスと似た状態の御影がいた。
ガブリエルが、肩の上で眠そうに欠伸を噛み殺している。
「……誰も、お前に同情なんかしていない」
「でも、そう思わせちまったのは俺たちの責任だしな」
頭を掻きながら、苦笑するヴァイス。
「だから、チャラにしようぜ?」
「……うん」
こうして、結構あっさりとわだかまりが解けたわけだけれども。
「そう言えば、ミリアは?」
一番に謝らなければならない人。その人の姿が見えない。どこにいるのだろうか。
ヴァイスと御影には、謝った。あとは、ミリアだけ。僕はミリアを探すために、起き上がろうとした。でも、身体が動かない。心なしか、何かが圧し掛かっているような気が。
「感謝しろよ。俺とミカゲを放って、ずっとお前の看病をしていたんだ」
ニヤニヤと笑いながら、ヴァイスが僕の寝ているベッドを指差す。視線を、ベッドに向ける。
「う〜ん」
ミリアが、そこにいた。無防備な寝顔。僕の身体に体重を任せ、ぐっすりと眠っている。そんなミリアに、僕は苦笑を浮かべた。
夜遅くまで起きていて、僕の看病をしてくれていたんだろう。目の下には、大きな隈が見える。
「……少し、風に当たってくる」
「そうだな」
「えっ? えっ? 何で〜?」
ヴァイスと御影が、意外としっかりした足取りで部屋を出て行く。ガブがなにやら御影に言っていたが、御影は無視していた。
「ん、うぅ〜ん」
眉を顰め、ミリアの目蓋が動く。やがて、ミリアは起床した。
「あ、あはは。寝ちゃってたんだ、私」
目を擦りながら、呟くミリア。僕は、そんなミリアにどう声をかけていいのか分からなくて。
「おはよう、ミリア」
とりあえず、差し障りのない挨拶をしてみた。
「ゆ、ユウ!? 目が覚めたの!?」
弾かれたように立ち上がるミリア。身体を覆っていた圧力が消え、僕は上半身を起こす。
視界に飛び込んできたのは、目を丸くしたミリアの顔。疲れが簡単に見て取れる、憔悴しきった顔だった。
「もう大丈夫なの?」
「うん、ありがとう。それと、ごめん」
突然頭を下げた僕に、戸惑うミリア。
「ど、どうしたのよ!?」
「僕、ミリアに酷いこと言ったから。変な意地を張ったせいで、皆、大変な目に合ったから。君を、泣かせちゃったから」
だから、僕は謝った。今までのこと、全部含めて。精一杯、力一杯謝った。
「わ、私の方こそ、君のこと傷つけて……。私が、謝る方なのに」
僕は頭を上げて、ミリアを見る。そこには、顔を真っ赤にしたミリアの顔があった。両手を、ロングスカートの上でもじもじさせている。それが、少しだけ意外で。僕は、首を傾げた。
「助けてくれて、ありがとう。それと、同情なんかして、ごめんなさい」
頭を下げて、謝るミリア。これじゃ、さっきと立場が逆だ。
本気で謝ってくるミリア。僕はそんなミリアを見て、笑みをこぼした。
「じゃあ、お互い様だね」
「……そうね」
互いに顔を見合わせて笑う。この瞬間。僕は本当の意味で、チーム・アハツェンのセイバーになった。
と、そう思ったのも束の間。勢いよく部屋の扉が開かれる。まさに、息つく暇も無い。かなりの急展開。僕は嫌な予感がして。ドンヨリと顔を曇らせた。
「ユウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
声の主は、ベッドの僕を確認するや否や跳びかかってくる。やっぱり、所々に包帯を巻いていて。それでも元気一杯に、金髪の少女は僕に突っ込む。
「や、やあ、フィア」
チーム・クワトロのランサーが、僕の腕の中で丸くなる。
「大丈夫? 真眼の使いすぎで倒れたって聞いたけど。駄目だよ、真眼は諸刃の剣なんだから。ご利用は計画的にってね。それにしても、あの化け物を一人で倒したんだって? 凄いよぉ、ユウ。アタシたちが束になっても敵わなかった相手を、あっさり下すなんて」
口を挟む暇も無いほどの、マシンガントーク。僕は、苦笑を浮かべるしかなかった。
逃げるように視線を逸らすと、今度は不満そうにこっちを睨んでいるミリアが目に入る。何か、絞られているタオルがギチギチ言ってるんですけど。
そんなミリアに、まるで勝ち誇ったかのような、挑発的な視線を向けるフィア。激突し、火花を散らす視線と視線。何? 何なの? 僕が寝てる間に、何があったの!? あぁ、止めて! そんなに絞らないで! ほら、タオルがブチブチ言ってるよ!!
とっても危ない状態。龍と虎に挟まれ、僕は冷や汗を流す。
「フィア〜? チームメイトの看病はどうしたの〜?」
怖い。優しい口調が今は怖い。
「ミリアこそ、看病はもう必要ないんだから、どっか行ったら〜?」
言葉の端々に殺気を感じるのは気のせいなのか。もう、僕にはどうしようもなかった。って言うか、ミリア、キャラ変わってない?
「いやぁ、いい風だったなぁ。なあ、ミカゲ」
「……ああ、そうだな」
「ねぇねぇ。時間潰しってどういう事〜?」
そんな時。天の助けとばかりに頼れる仲間たちが帰ってくる。僕は期待に満ちた視線を扉に向け。
そして、部屋に入ってきた我らがランサーとフリッカー(&猫)はこの状態を見て一言。
「腹が減ったなぁ。なあ、ミカゲ」
「……ああ、そうだな」
「え〜? さっき食べたばっかりじゃないか〜」
我関せずを決め込み、去っていった。
グルグルと唸り声を上げながら、睨み合うミリアとフィア。
そんな二人に溜め息を吐いて。僕は、ふと夢のことを反芻していた。
まるで、実際に体験したかのような、そんな感覚だった。知らない物も、懐かしいと感じた。分からない。一体、あの夢は何だったのか。もし、僕があれを知っているのなら。僕は、一体何者なんだろう。
それは、自分が自分じゃない感覚。僕は、佐々木悠。日本に生まれて、日本で育った。何の変哲もない生活をして、人並みに幸せだった。それが、僕の過去。僕の記憶。でも、確かにあの夢も僕の記憶だったような気がして。僕の過去だったような気がして。
そう思うと、胸がズキリと痛んだ。
浮かんだのは、あの女の子の顔。画面が変わるたびに、成長して。面影は変わることなく、どんどん大人になっていって。声が、響く。夢の中の声。時折聞えた声。それは、どっちもまったく同じもので。全部は、あの女の子に繋がっているような気がして。
そして、閃きと一緒に女の子の顔は一人の顔と重なった。
「セリカ、相談役?」
1800年前から生き続けている人。人の定理を離れた賢者。二回ほどしか見ていない顔。でも、夢とはっきりと重なって。
あの人が、全部を知っている?
僕の夢も、それがなんであるかも。そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
「フィア、ごめん」
フィアを退け、ベッドから降りる。身体が軋むけど、気にするほどじゃない。
椅子に掛けられてあった制服を着て、ロングコートを着込み、刀を身に着ける。確か、王宮には……。どうやって行けばいいんだっけ。
「ミリア」
「な、何?」
突如行動を始めた僕に目を丸くしていたミリアが、慌てて答える。
「王宮って、どうやって行けばいいの?」
「ああ、それなら……」
「私がお供しましょう。ユウ君」
声は、扉から。見れば、クロウさんがそこに立っていた。
「私も、王宮には用がありますから。一緒に行きましょう」
「はい」
頷いて、クロウさんの横に並ぶ。
そうして、僕は歩き出した。僕が、僕を知るために。
王都。アリキシス王国の首都にして、最も活気に溢れる都市。その大通りを、僕とクロウさんは歩いていた。
石畳の道を歩けば、正面には王宮が霞んで見える。
あそこから王宮って、結構な距離があったんだ。
「そろそろ、動く頃だと思っていましたよ」
黙々と歩き続ける中。クロウさんが、唐突に口を開く。
「二回の真眼使用。そろそろ、疑問を持ってもいいはずでしたから」
? いきなり、何を言っているんだろう。
「君の情報をスキャンさせてもらいました。お蔭で、色々分かりましたよ。君の真眼の能力。どうやっても解析出来ないブラックボックス」
スキャンって、一体いつの間に。
「君が真眼を発動すると同時に、ブラックボックスから少しですが何かが流れている。それは、剣に纏わり付く影となって顕現する。君、相談役、アウル。仮説は、立ちました。あとは、事実を確認するだけ」
それって、どういう……。
「私は、ただの道案内です。事実は、自分の目で見て、耳で聞いてください」
気がつけば、王宮の正面まで来ていた。鼓動が、不規則に波打つ。
「一つだけ、教えてあげます。ユウ君。君の真眼は、結合の力を持っている」
「……クロウさん。貴方は、何者なんですか?」
「探求者ですよ」
それに、と。クロウさんは、意地の悪い笑みを浮かべる。
「ぶっちゃけた話、アウルが気に入りませんでしたから。ですから、色々と調査をしている内に色々と知ったんです。内緒ですけどね」
言いながら、王宮へと続く扉を開けるクロウさん。そのまま、歩を進める。
王宮は、慌ただしさに満ちていた。甲冑に身を包んだ兵士たちが走り、怒声が飛び交っている。
僕とクロウさんは、揃って首を傾げた。
「どうしたんですか?」
走る兵士。その一人を呼び止め、クロウさんは尋ねる。
「これは、策士殿!!」
こんな状況でも、敬礼をする兵士。
「何があったんですか?」
「それが、相談役とアウルさんが失踪したんです」
「失踪、した?」
どういう事だろう。
「執務室には、置手紙があるだけで。どこにも姿が見えないんです」
「置手紙とは?」
クロウさんが聞くと、兵士は困った顔をした。
「それが、たった一言アウルさんの字で、『始まりの場所』と」
その言葉を聞いた瞬間。僕の中で、何かが繋がった。
「……グラン・マル平原」
「ユウ君?」
どうしてそう思ったのか。そこにいると、確信があった。
「クロウさん!! すぐに捜索隊を組んで、あの進入禁止区域に向かわせてください!!」
「進入禁止区域……。元グラン・マル平原ですか!?」
それには答えずに、僕は走り出す。
真実は、もう目の前にあった。
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