第三章〜“真眼”(前編)〜
-遠い約束〜白銀の生誕祭〜-

 抜けるような青空。澄み渡った蒼穹。雲ひとつないそこに吸い込まれる、甲高い音。
 石で出来ている床を蹴る。目標は、目の前。鋭く息を吐き、目標に向けて木剣を打ち込む。踏み込み、叩き出される斬撃。大上段から袈裟懸けに振り下ろされたそれは、しかし目標の持つ木の棒で弾かれる。
 流れる上半身。しまったと思うのも一瞬。次の瞬間には、身体を捻って目標の突き出す棒を避ける。
 この二週間。死ぬほど動いて、身体に染み込ませた無理やりな動き。あの頃のままだったら、さっきの一撃で気を失っていただろう。
 回転に勢いを乗せたまま、突き出されている棒を叩き落す。
 床に当たり、甲高い音を発する棒。瞬間、それは跳ね上がった。
 あごを狙った一撃。当たれば、脳震盪は確実だ。
 舌を打ち、上体を仰け反らせる。あごを掠めて天に伸びる棒。その隙を逃さず、床を蹴って後ろへ跳躍。
 着地、そして疾走。
 筋肉が悲鳴を上げるが、それは無視だ。狙うは、がら空きになった胴。
 こっちの狙いに気付いたのか、それとも最初から分かっていたのか。鋭く棒を打ち下ろす目標。ここまでは、予想通り。
 棒が後頭部を強打する一瞬前。前へ踏み出していた足で横に跳ぶ。
 標的が消失し、空を切る棒。その一瞬を逃さず、着地と同時に跳躍した。
 一瞬で縮まる距離。振りかぶった剣で、首を刈りに行く。
 瞬間、視界が反転した。
「……あれ?」
 気付けば、僕は床に仰向けで転がっていた。視界に映るのは、木の棒を僕の喉元に突きつけている目標。
「惜しかったなぁ。まぁ、でも。俺に七割の力を使わせたんだ。上出来上出来」
 満足そうに笑うヴァイス。
 あれで七割だったら、本気になったヴァイスはどれだけの速さなんだろう。
 大きく息を吐き、空を見上げる。聖騎士団の使用する、演習場。三週間前から、僕はずっとここで戦う訓練を重ねていた。
 強くなる。絶対に、強くなって見せる。もう、あんな思いはしたくないから……。

―――――――

 それは、僕が聖騎士団八番隊、通称チーム・アハツェンに配属?されて、二週間が過ぎた頃だった。
 ようやくこの世界にも慣れ始め、さぁ今日も頑張るぞというとある昼下がり。
「チーム・アハツェンとチーム・クワトロは、地下演習場に集合せよ」
 御影と一緒に昼食を食べていた僕の元に現れた、ミリアとヴァイス。僕は、日本で言うラーメンに似た麺料理を啜りながら振り返った。
「あっぶないわねぇ。汁が付いたらどうするのよ」
「大丈夫だよ。黒いし」
「そんな事言ってるんじゃないわよっ!!」
「じゃあ、どういう事?」
 そんな不毛な言い争い。何故か、ミリアはよく僕に突っかかってくる。お蔭で、配属五日目でミリアの扱いに慣れたぐらいだ。
「……」
 隣で、我関せずと箸を動かす御影。ヴァイスは、やれやれと首を振りながらもその口の歪みを押さえきれないでいた。
「このお肉、美味しいねぇ〜」
「……いいから、黙って食え。巻き添えを食らうぞ」
 そうして、言い争うこと数分。互いに少し息が切れてきた頃。本来の目的を忘れているであろうミリアに、僕は聞いた。
「で、何なの?」
「そうそう、チーム・アハツェンとチーム・クワトロは、地下演習場に集合せよ、って何回言わせるのよ」
 覚えていたみたいだ。
「チーム・クワトロ?」
「ああ、そうだ」
 ミリアの代わりに、ヴァイスが言葉を紡ぐ。
「チーム・クワトロ。聖騎士団の四番隊だな。別名、プライド隊」
「プライド隊? 何それ」
「異常なんだよ、クワトロの隊長は。とにかく、プライドが高い。負けてもその事を認めようとはしないし、人を最初っから見下している。自分が一番、自分が中心って奴だな。しかも、文句のつけようがないぐらいの剣の使い手だ。高速詠唱クイック・スペルも使える。多分、聖騎士団の2だな」
「一つ、質問なんだけど」
「何だ?」
高速詠唱クイック・スペルって、何?」
 詠唱って言うのは、人が術を編むときに用いる言霊の事だ。この一週間、いろいろな詠唱を聞いて、いろいろな術式を見てきたけど。そんなの、聞いたことがない。
「あ〜、そういや、まだ話してなかったな」
 頭を掻きながら、ヴァイスは言う。
高速詠唱クイック・スペルっていうのは、最小限の言霊で術を編める奴のことだ。普通、術を編むためにはキーワード・スペルっていう決まった言葉を組み込んだ台詞を紡がなきゃならない。が、高速詠唱クイック・スペルを会得していればそのキーワード・スペルだけで術を編むことが出来るんだ」
「へ〜」
 そうなんだ。
「ちなみに、ミリアも高速詠唱者クイック・スペラーだぜ」
「ああ、だからあんなに速かったのかぁ」
 見れば、誇らしげに胸を反らしているミリア。御影は、ため息をついていた。
「……説明はいいが、集合時間はいいのか?」
「あっ」
 胸を反らしたまま、固まるミリア。そうしてゆっくりと魔力時計を視界に入れた。
「……あと、五分」
「……地下まで、急いで四分か」
 場を、沈黙が支配する。所々で笑っているのは、一番隊とか、三番隊とか、今のところ任務のない部隊の人たちだろう。
「ほら、ユウ! そんなにのんびりしてないで、早くする!!」
「……ガブ、そういう事だ」
「え〜。まだ半分しか食べてないのに〜」
 そうしている内に、一分経過。
「走れぇぇぇぇぇっ!!」
 ヴァイスを先頭にして、駆ける。緑の庭を駆け抜け、噴水の横を通り過ぎ。
 ――■■■■――
「っ!」
 眩暈がした。
「何してるの、ユウ!!」
「あ、ああ。ごめん」
 頭を振って、僕は駆け出す。あれが何だったのか。答えは、すぐ傍まで来ていた。
 東の演習場に転がり込むようにして、走り込む僕たち。ここから、階段を下りれば地下演習場だ。
 ほとんど落ちるようにして階段を下りる。皆が必死な中、御影は欠伸を噛み殺して余裕気な顔をしていた。
 木で作られた重厚な扉を開ける。広がる円形の広場。囲むようにして聳え立つ円柱は、天を支える柱。
 その中央。チーム・クワトロの面々と、もう一人、合計五人がいた。
「ジャストですね。もう少し余裕を持って行動してくれると助かるんですが……」
 困ったように言うその人。若干二十五歳でこの国の策士にまで登り詰めた天才、クロウ・グランヴェール。密かに、ミリアの憧れの人だったりする。
「遅いよぉ」
 頬を膨らませているツインテールの女の子。三叉槍トライデントを持っているから、ランサーだろう。
「来たか」
 やれやれと肩を竦める銀髪の青年。こっちは、ロングボウ。アーチャーかな。
「……」
 無言の、黒髪の少年。……何か、御影に似てるなぁ。大鎌を持っているから、フリッカーなんだろうけど。フリッカーって、皆こんな人?
 そして、あと一人。
「フン。逃げたかと思ったよ、チーム・アハツェン」
 明らかにこっちを見下している、少年。僕と同い年ぐらいだろうか。プラチナブロンドの髪の毛から覗く双眸は、嘲りに満ちていた。
「で、何ですか? 策士クロウ」
 息を整えて、ヴァイスは聞く。クロウさんはそうですねぇと前置きをしてから、話し始めた。
「アレックスくんが、新入りの実力を知りたいと言っていましてね? で、その立会人として私に白羽の矢が立ったわけですよ」
 目を閉じ、満足そうに笑みを浮かべるプラチナブロンドの少年。彼が、アレックス。
「チーム・クワトロの隊長だよ」
 ボソッと、ヴァイスが呟く。
「な〜にが、『実力が知りたい』よ。私たちの実力なら、研修時代に見てるでしょうに」
 不満げに呟くミリア。
「何か言ったかい? 三本矢トライ・アロー
「い〜え、何にも」
 結構、地獄耳なんだ。
 でも、実力が知りたいって、そんなのどうやって……。
 見れば、それぞれの武器を構える皆。御影だけ、つまらなそうに両手をポケットに入れている。
 やっぱり、戦うのかぁ……。
 ため息を吐きたくなる。いや、分かっていたんだけどね? チーム・アハツェンに配属された次の日に、そう言われたから。
 ――戦え。それ以外、お前がここにいる意味は無い。戦え、対極の英雄――
 あの日、アウルはそう言った。
 有無を言わせない言葉。大体、対極の英雄って何なんだよ。
 その日から、一通りの戦闘訓練はしてきたつもりだ。皆が使う術式も、一通り見せてもらったし。僕の使える術式も分かったし。
(身体強化の術式だけだけどね)
 軽く息を吐き、背負っていた白鞘を抜く。背中で鞘が展開し、銀の刀身が現れる。
 心臓が早鐘を打つ。柄を握る手が汗ばむ。
「それじゃあ、準備はいいかな? ……始め!!」
 号令がかかる。チーム・アハツェンとチーム・クワトロは、同時に床を蹴った。

―――――――

 愛槍グラスヴァインを構え、駆ける俺。目標は、後方支援担当のアーチャー。一番機動力のある俺がアーチャーを下せば、戦況はこっちに傾く。そう考えての突進。しかし。
「やらせないよっ!!」
「なっ!!」
 横から入る、トライデントの一撃。身を翻し、グラスヴァインでそれを受ける。視線の先には、チーム・クワトロのランサー、フィア・ファウストが。
「えへへ〜。ウチの隊長は、そっちのセイバーに用があるんだってさ。チーム・アハツェンの隊長さん」
「ちっ、よりにもよってフィアかよ」
 悪態を吐きながら、返す手首でトライデントを弾く。
 距離を取り、グラスヴァインを構える俺。
「おっ、やる気だねぇ」
「そりゃあ、やるからには本気じゃないとな」
「言うね。研修時代、アタシに一度も勝てなかった奴が」
「大人ぶってんじゃねぇよ、十四歳のガキが」
「なっ、年齢とか言うなぁっ!!」
 突進は、同時。
 トライデントとグラスヴァインの穂先が互いに互いを弾き、そうして俺とガキの戦いは始まった。
 ――その頃。
 私は、クレスケレンスの弦を限界まで引き絞っていた。狙うは、向こうの隊長。間違いなく強いあいつを何とかすれば、勝機は見えてくる。
 三本の矢が、目標を貫かんと牙を剥く。瞬間。視界に、影が割り込んできた。
「……」
 無言で突っ込んでくるフリッカー。ライ・シュヴァルツ。私は引き絞った弦を放した。
 速度の乗った銀の矢は、煌きながらライを襲う。が、
「……」
 一閃。全ての矢を弾き落とすライ。振り上げられる鎌。私は、右手に持ったクレスケレンスでライの大鎌を受け止めた。
 至近距離で睨み合う。ホンット、何考えてるか分かんない奴ね。御影より性質が悪い。
「くっ……、この!!」
 渾身の力を以って、大鎌を弾く。次弾を装填できる距離じゃない。距離を取らないと。
 矢筒から三本の矢を取り出し、同時に後ろへ跳ぶ。が、相手も馬鹿じゃない。距離を取らせまいと踏み出してくる。
 くっそ〜。鬱陶しい!!
 着地と同時に、左手に握っている矢の一本を投げる。牽制。虚を突く攻撃に、一瞬だけ進撃が止まる。でも、それで十分。
 一回のモーションで矢を番い、弦を引く。限界まで引き絞る暇はない。矢を放つ。
「っ!」
 身体を反らし、矢を避けるライ。頬を、血が伝う。ライはそれを舐め取り、笑った。
「何アンタ! キレキャラ!?」
 不気味に思うけど、そんな暇はない。これからが、本番だ。
 矢を番い、いつでも撃てるように構える。そう。これから、ライの本気が始まる……。
 ――同時刻。
 御影の肩の上、ボクは揺られていた。
「う〜。気持ち悪いよぉ〜」
「……文句を言うな。まず、アーチャーを潰すぞ」
 駆ける御影。何をそんなにやる気になっているんだろうね。
「やっぱり、ユウが心配?」
「……」
「やっぱりね〜。何か、弟みたいな感じだし〜」
「……舌を噛むぞ」
 言って、半身を開く御影。走りながら、なんていう無茶な事を!!
「あ、危ないじゃないか〜!!」
「……前を見ろ」
 言われ、視線を向ける。そこには、ロングボウを構えたアーチャー、クレイ・H・クラウンが。矢を放った後の体勢で。
「あ、危ないじゃないか〜!!」
 ため息を吐く御影。でも、ボクはそんなの無視さ。
「……行くぞ、ガブ」
 言って、右手を横に突き出す。ボクは頷き、宙を舞った。
 普段は愛らしい黒猫。しかし、その正体は。
 変化は、一瞬。禍々しい形の大鎌。死神が魂を狩る際に用いる武器。それが、ボク。
「……」
 無言で、ボクを構える御影。さぁ、行くよ。
 床を蹴り、一気に間合いを詰める御影。クレイは笑い、ロングボウを手放した。
「そう来なくてはなぁ、復讐者アヴェンジャー!!」
 腰から引き抜くのは、一対のショートソード。こいつ、白兵戦も出来るの!?
 大きく右半身を出しながら、上半身の捻りでボクを振るう。速度、威力、共に申し分ない一撃。しかし、クレイはそれを交差させたショートソードで受け止めた。
 激しい激突音。金属が打ち合う音が、演習場一杯に響き渡る。って言うか、痛いよ!! もうちょっと加減しようよ!! ホント、痛覚とか感覚は残るんだよ!?
 舌打ちをして、御影は右手を下げる。引かれて下がる刃。代わりに飛び出す、左の柄。
 棒術の要領で、柄を打ち込む御影。
「ちっ!!」
 素早く後ろに下がり、その一撃をやり過ごすクレイ。同時に、床のロングボウを拾い上げる。ショートソードを収め、矢を番えるクレイ。
 距離は、開いている。それも、アーチャーにとってはジャストな間合い。
「ど、どうするの〜」
「……舌、噛むぞ」
「え、え、ええぇぇぇっ!!」
 放たれる矢。御影は、それを事もあろうかボクで弾き飛ばした。それはもう、思いっきり力を入れて、とんでもない速度で。
「お、おえぇぇぇっ」
 なんて吐く真似をしてみても、御影は一向に気にしない。なんて使い方の荒い……。
 そうぼやいた、次の瞬間。本当の吐き気にボクは襲われた。

―――――――

「さぁ、始めようか、チーム・アハツェンのセイバー」
 そう言って、対峙するアレックス。手にした剣は、波打つ炎のような片手剣。
「俺の名前は、アレックス・ガルシア。ガルシア家の長男で、チーム・クワトロの隊長。二つ名は、爆炎エクスプロージョン
 さぁと、名乗りを促すアレックス。僕は刀を握ったまま、口を開いた。
「僕は、悠。佐々木家の次男で、チーム・アハツェンのセイバー。二つ名は……」
 二つ名は……。
「まだ、無い」
「そうかい」
 明らかな嘲笑を浮かべるアレックス。
「いやね、俺は楽しみにしてるんだ。S級モンスターを一人で倒した、貴様の実力を」
 そんな、はっきりと覚えてないことを言われても。
「がっかりさせないでもらおうかぁ!!」
 叫び、一気に間合いを詰めてくるアレックス。掬い上げるような一撃。考えるよりも先に身体が反応する。
「くぅ……!!」
 何とか刀で受けるが、衝撃を流しきれずに弾かれる。がら空きになる胴。そこに、アレックスは潜り込んできた。
 鳩尾に走る衝撃。柄で、腹を殴られた。
「がはっ!!」
 身体が浮き上がる。何も出来ない。速すぎる。なら……!
「わ、我が纏うは誓いの翼。真理と対する一つの形。それは……力!!」
 無いに等しい魔力が、身体の中を循環する。
「強化術式、ワンサイドウィング!!」
 着地と同時に、刀を構える。背中から生えた一枚の翼。輝くそれは、確かな力を僕に与えていた。これで、互角。
「互角になったとでも思っているのかい?」
「えっ?」
 剣を床に突き刺し、左腕を真横に振りぬくアレックス。
「我、想う、爆炎!!」
「なっ!!」
 目の前が、爆発した。視界が閉ざされ、衝撃が脳を揺らす。魔力の熱が、直接肌を焼く。衣服なんか、関係ない。それは、体内からの燃焼。
「ぐああぁぁぁっ!!」
 熱い、熱い、熱い!! 信じられないほどの熱量。身が引き裂かれるほどの力。保てているのは、術式のお蔭。でも、そんなに長くは持たない。
「爆炎の名は伊達じゃないぞ、名無し!!」
 声は、正面から。
「しゃっ!!」
 袈裟懸けに走る衝撃。斬られるというより、殴られる感覚。そして、その感覚の後。袈裟懸けに、身体が爆発した。
「がっ……!!」
「驚いたかい? 名剣、フラムベルジュ。刃は無いが、対象に触れれば爆発する。まさに、俺に相応しい武器さ」
 そう言いながら、何度も僕を殴りつけるアレックス。
「俺はね、貴様が気に入らないんだよ。何の苦労もせずに八番隊に入隊して、のうのうと過ごしている貴様が」
 拳が、顔面を捉える。圧倒的な力の差を感じながら、僕は床に倒れこんだ。術の効果時間が切れたのか、体内の燃焼は収まっている。視界も、徐々に回復している。でも、身体は、きっと、火傷だらけだ。
 勝てない。強すぎる。こんなの、無理だ。そもそも何で、僕はこんなに必死になってるんだ?
「なんだい、もう終わりかい? ま、そんなものだろうね」
 悔しい。手が出せないことが。届かないことが。あの嘲笑が、とても悔しい。
 視界が歪む。涙が滲む。でも、敵わない。敵うわけがない。もっと、力が欲しい。
「いいかい? 貴様は、聖騎士団にいるべきじゃない。貴様は、何も守れない」
 何も、守れない。
「俺は、貴様と違う。守ることが出来る。そう、この力で、全てをな」
 何かが、僕の中で切れて、繋がった。
――■■■■――
「ふざ、けるな……」
 刀を杖の代わりにして、起き上がる。立ち上がる。
「全てを、守れるだと……?」
 力だ。力が、湧いてくる。歪んだ視界も、クリアになる。
「お前に、何が守れる……?」
 でも、そんな事より。
「守るって言う言葉を……」
 怒りが、身体を支配していた。
「簡単に使うんじゃねぇぇぇっ!!」
 刀を引き抜く。大きな刃が薄く見える。これは、刀じゃない。大剣だ。
 柄を握る。ずっしりとした重量。懐かしい。
「なっ、貴様……!!」
「おおおおおおぉぉぉっ!!」
 床を蹴る。剣を肩に担ぎ上げ、視線をまっすぐに向けて。
「我、想う、爆炎!!」
 切羽詰ったかのように、術を編むアレックス。爆発する空間。しかし。
「はぁっ!!」
 剣を振りぬく。切り裂かれる爆炎。術の効果は、そこで消滅した。
「なっ!」
 更に、踏み込む。振り下ろした剣を左に引き、右半身からアレックスに突っ込む。
 フラムベルジュを振るうアレックス。しかし、遅い。完全に、見えている。
 振り下ろされるフラムベルジュは、しかし身体に当たることなく空を斬る。そして、俺はアレックスの懐に潜り込んだ。
「ぐぁっ!」
 体当たりを喰らい、大きく後退するアレックス。俺は、間合いが外れる前に剣を振りぬいた。
 受ける剣はフラムベルジュ。しかし、そんなものでこの剣は止められない。
 弾き飛ばされ、遥か彼方に突き刺さる炎の剣。
「そこまでですっ!!」
 慌てた様に駆け寄ってくるクロウ。俺は剣を下げ、軽く目を閉じた。深呼吸を二、三回繰り返す。痛みがぶり返してくるけど、立っていられないほどじゃない。
「アレックス!!」
 尻餅をついたアレックスに駆け寄る、チーム・クワトロのメンバー。
「ユウ!!」
 同じように、チーム・アハツェンのメンバーが僕に駆け寄ってきた。
「……悠、お前」
 御影が、険しい顔で僕を見る。
「まさか君、真眼を発動したの!?」
 真眼? 何、それ。
「とりあえず、部屋に戻るぞ。早く休ませないと……」
 皆、何でそんなに慌ててるの? 僕は、大丈夫。少し、身体が動かないだけだから……。
「……ヴァイス……」
 肩を貸してくるヴァイスに、僕は話しかける。
「何だ、ユウ」
「強く、強くなりたい……。もう、こんな思いは、したく、無いんだ……」
「ああ。分かったから。だから今は、休むことだけ考えろ」
「……うん」
 そうして、保っていた意識は闇の彼方へと沈んでいった。
「あの剣は……」
 意識が消える直前。クロウの、そんな言葉を聞いた気がした……。




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