「自由って素晴らしいな〜。ん〜っ、僕は自由だーーーー!!!」
空で叫んでいる鶯がいた。
そう、暁である。
暁は榎凛の呪縛から逃れ、今は自由の身である。
「さて……、銀杏神社はもうすぐかな?」
「後、3里くらい行けば着きますよ」
「3里かぁ……。もうすぐだね」
「もうすぐですね」
「そう、もうすぐって……ええーー!?」
暁はいつの間にか隣に人が飛んでいたのに気付いた。
それは、巫女装束を着ている女性。
「も、椛さん……驚かさないで下さいよ……」
「驚いたのはこちらですよ? 私の結界内で叫んでいる者がいるのですから……」
その女性は「暁だったのですか……」とため息をつく。
この女性は『銀杏神社』の主。秋の巫女と称される人、
椛は結界を創るのが得意であり、4人の中で一番壊れにくい結界を創れる事が出来る。
「しかし……、こうも連続で、空で他の巫女と会うと……椿の能力が意味無くなるんじゃ……」
「あら、椿さんは“風を操ることが出来る能力”でしょう? 私の能力は“結界内で自分の思い通りになる能力”ですから、結界内じゃないと空は飛べないですからね」
椛は笑いながら言った。
ちなみに、椿にさん付けをして言っているが、椛は4人の中で一番年増……いや、最年長である。椿は17歳、榎凛は15歳、椛は19歳である。
「さて、暁が来ているということは……暇を弄びに此処まで来たか……それとも、椿さんの熾烈行為に腹立て、ストライキとかでしょう?」
「いや、全くもって違います」
「じゃあ……、主の式紙であることを忘れて此処まで?」
「いや……僕は椛さんに会いに来たんですが」
「まあ、椿さんを捨てて私に会いに? 暁、貴方も大胆ですね」
椛は両手を頬に当て、嬉しがっている。
予想通りの行動をしたな、と暁は思った。
「いや……用事で」
「幼児? まあ、椿さんの子供っぽい体型に飽きて、私の大人的な体型を目に付けたのですか? 暁、貴方も好きですね」
会話が成り立っていない。どちらかというと会話が食違っている。
椛はネジが一本、いや二本三本無くなっているのではないかと言われるぐらい、勘違いキャラである。
暁もそのことを承知していたが、まさかこんな展開になるとは思いもしていなかった。
「幼児じゃなくて……用いる事と書いての用事の方ですから……」
「あら、私また勘違いを……。それで、用事というのは椿さんの使いですか?」
「ま、そういったところです」
そう言うと、暁は椛に一枚の符を渡す。
椛はそれを受け取り、読み出した。音読で。
「何々……《ボクの神社の“春のカケラ”を奪いに妖怪が来襲。その妖怪は人間に対抗意識がない犬神であること。これは新たなる事件の幕開けかと思い、皆に連絡する。そして、ボクは犬神に宣戦布告するべく明日、神社を離れ犬神の里へと来襲しに行く。ボクと共に戦う者がいれば、今宵、桜香神社に集合せよ》……なるほど、そういうことですか」
暁はこう思う。果たして、大事な手紙を声に出してしまっても良いのか……と。
折角持って椿が霊力で創った符。邪のある者には見えない仕組みになっている。
それを声に出していっているのだ。
だが、ここは椛の結界内。簡単に妖怪は入って来られない。という事は妖怪にこの事を聞こえてない。
暁は妖怪に聞かれてないことに安心する。
もし聞かれていたら、椿に半殺しされていたかも知れないからである。
そして、椛は鮮やかな色をした一枚の符を出す。
「――鈴、出てきなさい」
「……如何?」
椛の隣に、大きな動物が現れる。それは鹿。
椛の式紙、名は
「鈴、貴方に命令します。すぐに戦の準備を……それも大きな戦いに備えて」
「……了解」
鈴はそう言い去った。
どうして他の式紙たちはこうも、必要なことしか言わないんだろ、と暁は思う。
椛は「さて……」と呟く。そして何処から出したかは知らないが一枚の符に何かを書き出した。
「これで良し。さて暁、長い時間飛んでいて翼が少々疲れたでしょう? 御茶でも飲んでいきませんか?」
「い、いや……遠慮しておきます。戻ったら、椿の桜餅が待っていますので」
暁は丁重に拒否した。被害者になることを恐れ。
椛は残念そうな顔をしていた。
そんな顔をしていると可哀相なので、逆に食べていっても構わないのではないかと思ってしまう。
だが、椛が作る御茶は天下一品。誤ったら死人が出るという幻の和菓子である。
椛は料理が作るのが下手で、いつもは鈴に作らしている。
いや、他の者達が鈴に無理を言って作らせている。
そのせいかいつまでも椛は料理が上達しない。
いや、上達の仕様が無いのだ。
見た目は綺麗で、味も何故か美味しいのだが……。
その作った料理は、『有害な毒が入った物』に変化するのだ。
暁もその被害者。
椛の優しい、もとい心に邪の持たない笑顔をされたので、ついつい手を伸ばしたのが原因だった。
死因にはならなかったものの、一週間、腹痛と下痢に悩まされた。
それ以来、暁は何があっても椛が作った料理などは食べないと誓ったのだ。
「そう、残念。じゃあ、これくらいは持って行きなさい」
そう言って手渡されたのは先程、椛が書いていた符である。
「これは……?」
暁は手渡された符を見て言う。
書いていること全てを理解することは出来なかったが、符の中心にある『結』の字は分かった。
「ちょっとした防御結界です。これなら道中も安心でしょう?」
「へえ……。有難う御座います」
「では、今宵また会いましょう。暁」
椛はそう言うと、暁の目の前から一瞬にして消える。
皆、何で瞬時に消えるのが好きなんだろ? と、暁は思った。
ちなみに、暁には瞬時に消える能力なんて持っていない。
さて、次は冬の巫女へ会うために『
……とても、無理な綴りで名前を現している神社へと。